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コラム

給与計算の扶養控除とは?人数の数え方から変更時の所得税・年収まで解説

2025.11.18

給与計算における扶養控除は、毎月の給与から天引きされる所得税の金額を決定する重要な要素です。
扶養控除を正しく理解し、従業員それぞれの扶養人数を正確に把握することで、適切な所得税の計算が可能になります。

扶養の対象となる親族の条件や人数の数え方は税法で定められており、従業員の家族構成や家族の年収状況によって変動します。
この記事では、給与計算担当者が押さえておくべき扶養控除の基本から、具体的な実務対応までを網羅的に解説します。

これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。

現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。

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給与計算における扶養控除と所得税の仕組み

毎月の給与計算では、基本給などの総支給額から社会保険料などを差し引いた後、扶養親族の人数に応じた所得税額を源泉徴収します。
この扶養親族の数が多ければ多いほど、税法上の控除額が大きくなり、結果として課税対象となる所得が減少するため、所得税の負担は軽くなります。

従業員に渡す給与明細に記載される手取り額は、この源泉徴収税額によって変動します。
したがって、扶養控除の適用を正しく行うことは、従業員の手取り額を正確に計算するために不可欠な業務です。

税法上の扶養親族に該当するための4つの条件

税法上の扶養親族として認められるには、その年の12月31日時点で、以下の4つの条件を全て満たす必要があります。
第一に、配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族)であることです。
第二に、納税者と生計を共にしていることが求められます。
必ずしも同居している必要はなく、仕送りなどで生活を支えている場合も含まれます。
第三に、扶養される親族の年間の合計所得金額が48万円以下であること。
給与収入のみの場合は、年収103万円以下が目安となります。
最後に、青色申告者の事業専従者として給与の支払いを受けていないこと、または白色申告者の事業専従者でないことも条件です。

扶養親族の正しい人数の数え方

給与計算で源泉徴収税額を算出する際、扶養親族の数を正確にカウントすることが求められます。
特に、配偶者の扱いや子供の年齢については、誤解が生じやすいポイントです。
税法上の扶養親族の定義を正しく理解し、従業員から提出される「扶養控除等(異動)申告書」に基づいて、慎重に人数を確認する必要があります。

扶養親族の数え方を間違えると、毎月の所得税額が変わり、年末調整で多額の追徴や還付が発生する原因となり得ます。

配偶者は「控除対象配偶者」に該当するか確認する

所得税の計算上、配偶者は扶養親族の人数には含めません。
代わりに、「控除対象配偶者」という別の枠組みで扱われます。

控除対象配偶者に該当するためには、納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下であり、かつ配偶者の年間合計所得金額が48万円以下(給与収入のみの場合は103万円以下)であるなどの要件を満たす必要があります。
例えば、妻のパート収入が年間103万円以下であれば、夫は配偶者控除を受けられます。
この場合、給与計算の源泉徴収税額表を参照する際の「扶養親族等の数」に、控除対象配偶者1人としてカウントします。

16歳以上の親族を扶養親族としてカウントする

所得税法上の扶養控除の対象となるのは、その年の12月31日時点の年齢が16歳以上の扶養親族です。
したがって、16歳未満の子供は扶養親族の数に含めることはできません。
これは、かつて存在した年少扶養控除が廃止され、代わりに児童手当制度が導入された経緯によります。

給与計算担当者は、従業員の子供が15歳から16歳になるタイミングを把握しておくことが重要です。
子供が16歳の誕生日を迎えた年の1月1日から扶養親族としてカウントできるようになるため、従業員に「扶養控除等(異動)申告書」の提出を促し、扶養人数を更新する必要があります。

【シミュレーション】扶養人数によって所得税額はこう変わる

扶養親族の人数が所得税額にどれほど影響を与えるかを具体的に理解するため、シミュレーションを行います。
ここでは、社会保険料等控除後の給与月額が30万円の従業員を例に、扶養親族が0人、1人、2人の場合の源泉徴収税額を比較します。

このシミュレーションを通じて、扶養人数の違いが毎月の手取り額に直接的な差を生むことが分かります。
実際の税額は国税庁が公表する「給与所得の源泉徴収税額表」に基づいて算出されます。

ケース1:扶養親族が0人の場合

社会保険料等控除後の給与月額が30万円で、扶養親族が0人の従業員を例に考えます。
この場合、国税庁の「給与所得の源泉徴収税額表(令和6年分)」を参照すると、「その月の社会保険料等控除後の給与等の金額」が299,000円以上302,000円未満の行を見ます。
次に、「扶養親族等の数」が0人の列を確認すると、源泉徴収すべき所得税額は8,420円となります。

この金額が、毎月の給与から天引きされることになります。
独身者や、共働きで配偶者が扶養に入っていない従業員などがこのケースに該当します。

ケース2:扶養親族が1人の場合

次に、社会保険料等控除後の給与月額が30万円で、扶養親族が1人いるケースを見ていきます。
扶養対象となる配偶者や16歳以上の子供が1人いる場合がこれに該当します。
ケース1と同様に「給与所得の源泉徴収税額表」を参照し、「その月の社会保険料等控除後の給与等の金額」が299,000円以上302,000円未満の行を見ます。
そして、「扶養親族等の数」が1人の列を確認すると、源泉徴収すべき所得税額は6,300円です。
扶養親族が0人の場合と比較して、月々の所得税負担が2,120円軽減される計算になります。

ケース3:扶養親族が2人の場合

最後に、扶養親族が2人いる場合の所得税額を計算します。
社会保険料等控除後の給与月額が30万円である点は同様です。
例えば、控除対象配偶者と16歳以上の子供1人が扶養に入っている従業員がこのケースに当たります。

「給与所得の源泉徴収税額表」で該当箇所を見ると、「扶養親族等の数」が2人の列の税額は4,180円です。
扶養親族がいない場合と比較すると、月々の所得税額は4,240円も少なくなります。
このように、扶養親族の数が増えるごとに、毎月の源泉徴収税額は段階的に減少していく仕組みになっています。

年齢で異なる扶養控除の種類と控除額

扶養控除の金額は、扶養親族の年齢によって異なります。
これは年末調整や確定申告で年間の所得税を確定させる際に適用される控除額であり、毎月の源泉徴収では年齢による控除額の差は反映されません。

しかし、給与計算担当者としては、年末調整の際に正しい計算を行うため、年齢区分ごとの控除の種類と金額を理解しておくことが不可欠です。
扶養親族はその年の12月31日時点の年齢に基づき、「一般」「特定」「老人」の3つに大別されます。

一般の控除対象扶養親族(16歳以上)

その年の12月31日時点の年齢が16歳以上の扶養親族のうち、後述する特定扶養親族や老人扶養親族に該当しない親族は、「一般の控除対象扶養親族」に分類されます。
これに該当する場合の所得控除額は38万円です。
具体的には、年齢が16歳以上19歳未満、または23歳以上70歳未満の親族が対象となります。

毎月の給与計算で用いる源泉徴収税額表の「扶養親族等の数」は、この一般の控除対象扶養親族を基本としてカウントします。
高校生の子供や、所得のない親(70歳未満)などが典型的な例です。

特定扶養親族(19歳以上23歳未満)

扶養親族のうち、その年の12月31日時点の年齢が19歳以上23歳未満の者は、「特定扶養親族」に該当します。
この年齢層は大学生などが多く、教育費などの負担が特に大きいことを考慮し、所得控除額は63万円と一般の扶養親族より高く設定されています。

ただし、毎月の給与計算における源泉徴収では、特定扶養親族も一般の扶養親族と同様に1人としてカウントします。
上乗せされた控除額(63万円と38万円の差額)は、年末調整の際に年間の所得税を再計算することで精算される仕組みです。

老人扶養親族(70歳以上)

その年の12月31日時点の年齢が70歳以上の扶養親族は、「老人扶養親族」と呼ばれます。
老人扶養親族の所得控除額は、納税者またはその配偶者の直系の尊属(父母、祖父母など)で、常に同居しているかどうかによって金額が変わります。

同居している「同居老親等」の場合は58万円、同居していない場合は48万円の控除が適用されます。
特定扶養親族と同様に、毎月の源泉徴収では一般の扶養親族として1人と数え、控除額の差額については年末調整で調整が行われます。
そのため、同居の有無を申告書で正確に確認することが必要です。

社労士 小栗の
アドバイス

令和6年(2024年)以降、国外に居住する30歳以上70歳未満の非居住者は原則として扶養控除の対象外となりました。扶養継続には留学や障害者である証明、または送金関係書類の提出が必要となるため、該当従業員には速やかに周知し、必要書類を提出してもらいましょう。

扶養人数に変更があった場合の給与計算への反映タイミング

従業員の扶養人数に変更があった場合、いつから給与計算に反映させるかは実務上の重要なポイントです。
例えば、子供の出生や結婚、配偶者の就職や退職などにより扶養状況は変動します。
原則として、従業員から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」によって変更の申し出があった後、最初に支払われる給与から新しい扶養人数を適用して所得税を計算します。

申告が遅れると、その分年末調整での精算額が大きくなるため、変更があった際は速やかに申告するよう従業員に周知しておくことが望ましいです。

従業員の扶養状況が変わった際の手続き方法

従業員の結婚、子の誕生、家族の就職・離職などにより扶養状況に変化が生じた場合、給与計算担当者は速やかに対応する必要があります。
手続きの基本は、従業員からの正式な申告を受け、その内容を給与計算システムに正確に反映させ、最終的に年末調整で年間の税額を精算するという流れです。

この一連のプロセスを滞りなく行うことで、正しい源泉徴収とスムーズな年末調整を実現できます。
手続きの遅延やミスは、税額の誤りにつながるため注意が必要です。

従業員から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出してもらう

扶養状況に変更が生じた際の手続きは、従業員に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を記入・提出してもらうことから始まります。
この書類は、扶養人数の増減を会社として正式に把握するための根拠となります。
例えば、子供が生まれた場合は「住民税に関する事項」欄に氏名等を記載し、異動月日及び事由の欄に変更内容を記入してもらいます。

配偶者の所得が増えて扶養から外れる場合も同様です。
担当者は提出された申告書の内容を確認し、変更が正確に反映されるように処理を進めます。

給与計算システムの設定を更新する

従業員から「扶養控除等(異動)申告書」を受理したら、次の給与計算に間に合うよう、速やかに給与計算システムや従業員台帳の情報を更新します。
システム上の扶養親族の人数設定を変更することで、申告後の給与支払い分から、新しい扶養人数に基づいた源泉徴収税額が自動的に計算されるようになります。

この設定更新を忘れると、変更前の人数のまま誤った税額で徴収を続けてしまい、年末調整で大きな差額精算が必要になったり、従業員からの問い合わせにつながったりする可能性があるため、確実な作業が求められます。

年末調整で年間の所得税を再計算し精算する

年の途中で扶養人数に変更があった場合、毎月の給与計算で変更を反映していても、年間の所得税額と源泉徴収税額の合計には通常ズレが生じます。
そのため、年末調整において、1年間の給与総額と社会保険料、生命保険料控除、そして最終的な扶養控除額を基に、年間の正しい所得税額を再計算します。

そして、すでに源泉徴収した税額の合計との差額を算出し、還付または追加徴収という形で精算します。
この手続きによって、1年間の所得税の納税が完了します。

扶養内で働く際に知っておきたい「年収の壁」

2025年税制改正により、税法上の「年収の壁」は大きく見直されます。

160万円の壁(所得税の非課税ライン)

本人の所得税:パートやアルバイトの給与収入が年間で160万円を超えると、その本人に所得税が課され始めます。

この160万円は、給与所得控除(改正により最低65万円に引き上げ)と、基礎控除(改正により最低95万円に引き上げ)を合計した金額です。この改正は、パートや低所得者層の税負担を軽減し、就業調整を緩和する目的で導入されました。

なお、住民税についても、非課税となる年収の基準が概ね100万円から110万円に引き上げられます(自治体により異なる場合があります)。

123万円の壁(扶養親族等の所得要件)

配偶者特別控除:配偶者の収入が123万円を超えても、給与収入201.6万円未満(改正前と変わらず)であれば、収入額に応じて配偶者特別控除が適用可能です。また、満額(38万円)の控除を受けられる配偶者の年収上限も、150万円以下から160万円以下へと引き上げられます。

扶養控除・配偶者控除:改正により、扶養親族同一生計配偶者(配偶者控除の対象となる配偶者)の所得要件が、従来の「合計所得金額48万円以下」(給与収入103万円以下)から「合計所得金額58万円以下」(給与収入123万円以下)に引き上げられます。

つまり、扶養されている配偶者やその他の扶養親族の給与収入が123万円を超えると、扶養者(夫など)は扶養控除配偶者控除を受けられなくなります。

社会保険の加入義務が生じる「106万円・130万円の壁」

社会保険に関する「年収の壁」は、税制改正とは別に、既存の適用拡大措置や支援策が継続・進展しています。

106万円の壁(短時間労働者の社会保険加入)

以下の全ての条件を満たす場合、本人が勤務先の社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入する義務が生じます。

  • 勤務先の従業員数が51人以上(段階的に企業規模要件は撤廃の方向)
  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 月額賃金8.8万円以上(年収換算で約106万円以上)
  • 2か月を超えて働く見込みがある
  • 学生ではない

💡 支援策の動向: 社会保険適用促進手当の支給など、手取り収入の減少を抑えるための企業の取り組みに対し、支援が行われています(年収の壁・支援強化パッケージ)。また、「106万円の壁」自体を撤廃する方向で、被用者保険の適用拡大が進められています。

130万円の壁(社会保険の扶養から外れる基準)

上記の106万円の壁の条件に当てはまらない場合でも、年間収入が130万円以上(月額約108,334円以上)になると、配偶者などの社会保険の扶養から外れます。

年収が130万円未満であっても、一時的な収入増加により130万円以上の見込みとなった場合、扶養から外れることがあります。

この場合、本人は自身で国民健康保険国民年金に加入し、保険料を全額自己負担しなければならず、手取り額が大きく減少する場合があります。

社労士 小栗の
アドバイス

年収の壁(社会保険の適用拡大)は、企業規模や労働条件によってはパート・アルバイトに社会保険の加入義務が発生する重要な労務管理上の論点です。会社は、意図しない加入漏れを防ぐため、対象となる従業員の労働時間・賃金を適切に管理し、加入要件と手続きについて丁寧に説明することが不可欠です。

まとめ

給与計算業務において、扶養控除の正しい理解と運用は極めて重要です。
扶養親族の認定要件や正確な人数の数え方を把握し、従業員の状況変化に応じて速やかに手続きを行う必要があります。

また、扶養親族の年齢によって年末調整で適用される控除額が異なる点や、従業員家族の働き方に影響する「年収の壁」についての知識も、担当者として備えておくべきです。
これらの知識に基づいた正確な事務処理は、適正な納税に貢献するとともに、従業員との信頼関係を築く上での基礎となります。

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