毎年改定される最低賃金は、いつから給与に反映されるのか、給与計算担当者や労働者にとって重要な関心事です。
最低賃金の適用は「効力発生日」が基準となり、給与の締め日によって対応が異なります。
特に、給与計算期間の途中に効力発生日が含まれる場合は、日割り計算が必要になるなど、複雑な対応が求められます。
本記事では、給与の締め日別に具体的な適用タイミングを解説するとともに、正しい給与の計算方法と注意すべきポイントを詳しく説明します。
この記事の監修

日本ペイロール株式会社
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
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最低賃金の改定は「効力発生日」以降の労働分から適用される
新しい最低賃金は、厚生労働省が定める「効力発生日」以降の労働に対して適用されます。
給与の支払い日ではなく、実際に労働した日が基準となるのが原則です。
例えば、効力発生日が10月1日であれば、10月1日以降に働いた分の給与から新しい最低賃金額が適用され、9月30日以前の労働分については改定前の金額が適用されます。
月給制や日給制の場合も同様に、効力発生日を境に新旧の最低賃金を考慮して給与計算を行う必要があります。
また、有給休暇を取得した際の賃金計算においても、その日が効力発生日以降であれば、新しい最低賃金を基に計算することが求められます。
給与の締め日別!最低賃金が適用されるタイミングを具体例で解説
最低賃金がいつの給与から反映されるかは、企業の給与締め日によって異なります。
給与計算期間と効力発生日の関係で、計算方法が変わるため注意が必要です。
例えば、給与計算期間の途中に効力発生日が含まれる場合、月給者であっても日割り計算が発生します。
これは、派遣社員の場合も同様で、派遣元企業が派遣先での労働時間に基づき、効力発生日を境に時給を改定して給与を計算する義務を負います。
ここでは、具体的な締め日のパターンを3つのケースに分けて、どのタイミングで新しい最低賃金が適用されるかを解説します。

ケース1:給与計算期間の締め日が「効力発生日」より前の場合
例として、効力発生日が10月1日で、給与の締め日が毎月20日のケースを考えます。
この場合、9月21日から10月20日までの給与計算期間が対象となります。
10月1日以降の労働については、新しい最低賃金額を適用して計算しなければなりません。
具体的には、9月21日から9月30日までの労働は改定前の時給で、10月1日から10月20日までの労働は改定後の新しい時給で計算します。
したがって、この給与計算期間では2種類の時給が混在することになり、日割りでの正確な計算が求められます。
これは試用期間中の従業員であっても同様に適用されるため、雇用形態に関わらず全ての労働者に対して適切な対応が必要です。
ケース2:給与計算期間の締め日が「効力発生日」より後の場合
効力発生日が10月1日で、給与の締め日が月末である企業を例に解説します。
この場合、10月1日から10月31日までの労働に対する給与から、全面的に新しい最低賃金が適用されます。
9月1日から9月30日までの労働に対する給与(通常10月支払い)は、効力発生日より前の期間が対象となるため、改定前の最低賃金で計算されます。
つまり、11月に支払われる給与からが、完全に新しい最低賃金に切り替わるタイミングです。
このケースでは、給与計算期間の途中で時給を変更する必要がないため、比較的シンプルに対応できますが、適用開始月を間違えないよう正確な管理が求められます。
ケース3:給与計算期間の途中に「効力発生日」が含まれる場合
給与計算期間の途中に効力発生日が含まれる場合、最も慎重な計算が求められます。
例えば、毎月15日締め、当月25日払いの会社で、効力発生日が10月1日だったとします。
この場合、9月16日から10月15日までの給与計算期間が対象となります。
この期間のうち、9月16日から9月30日までの労働については改定前の最低賃金が適用され、10月1日から10月15日までの労働については改定後の新しい最低賃金が適用されます。
したがって、10月25日に支払われる給与は、新旧の時給を日割りで計算し、合算した金額を支給しなければなりません。
勤怠管理システムなどで時給設定を適切に変更し、計算ミスがないように注意を払う必要があります。

社労士 小栗の
アドバイス
給与計算期間の途中で最低賃金が改定される場合(ケース1, 3)は、新旧の最低賃金が混在するため、手作業や古いシステムでは計算ミスが非常に起こりやすい実務上の重要ポイントです。
最低賃金改定時に見直すべき給与計算の4つのポイント
最低賃金の改定は、単に時給制の従業員の時給を見直すだけでは不十分です。
月給制の従業員の給与が最低賃金を下回っていないかを確認したり、計算対象から除外すべき手当を正しく理解したりするなど、給与計算全体にわたるチェックが必要です。
雇用形態に関わらず全ての労働者が対象となるため、パートやアルバイトの時給も確実に見直さなければなりません。
ここでは、最低賃金の改定時に給与計算担当者が必ず確認すべき4つの重要なポイントを解説します。

ポイント1:自分の給与が最低賃金額を上回っているか確認する
月給制や日給制で働く従業員の場合、自身の給与が最低賃金を下回っていないかを確認するには、給与を時給に換算する必要があります。
基本的な計算方法は、「月給÷1ヶ月の平均所定労働時間」です。
この計算式で算出した時間額が、改定後の最低賃金額以上でなければなりません。
1ヶ月の平均所定労働時間は、年間の総所定労働時間を12で割ることで求められます。
給与計算担当者は、全ての月給制従業員についてこの時給換算を行い、最低賃金をクリアしているかを確認する作業が必須です。
もし下回っている場合は、基本給の引き上げや新たな手当の創設などの対応が求められます。
ポイント2:最低賃金の計算対象に含まれない手当を把握する
最低賃金を上回っているかを確認する際、全ての賃金が計算の対象になるわけではありません。
最低賃金の計算から除外される手当(除外賃金)が存在します。
具体的には、時間外労働手当、休日労働手当、深夜労働手当といった割増賃金や、通勤手当、家族手当、精皆勤手当は計算に含めません。
また、結婚手当などの臨時に支払われる賃金や、賞与(ボーナス)も対象外です。
したがって、月給からこれらの除外賃金を差し引いた金額を、1ヶ月の平均所定労働時間で割って時給換算し、最低賃金額と比較する必要があります。
このルールを理解せずに計算すると、誤って最低賃金を下回ってしまう可能性があります。
ポイント3:パートやアルバイトの時給も改定の対象になる
最低賃金は、正社員だけでなく、パートタイマー、アルバイト、契約社員、派遣社員など、雇用形態にかかわらず全ての労働者に適用されます。
そのため、最低賃金が改定された際には、企業は全ての労働者の賃金を見直す義務があります。
特に時給制で働くことが多いパートやアルバイトの場合、現在の時給が改定後の最低賃金額を下回っていないかを直接確認し、下回っていれば必ず引き上げなければなりません。
学生アルバイトなども例外ではなく、全ての労働者が最低賃金法によって保護されています。
改定の効力発生日以降は、新しい最低賃金額以上の時給で給与を支払うことが法律で定められています。
ポイント4:最低賃金を下回っていた場合の罰則を理解する
最低賃金法に違反し、従業員に最低賃金額以上の賃金を支払わなかった場合、罰則が科される可能性があります。
地域別最低賃金を下回る賃金しか支払わなかった場合、最低賃金法第40条に基づき50万円以下の罰金が定められています。
また、特定の産業に適用される特定(産業別)最低賃金を下回った場合は、労働基準法第120条に基づき30万円以下の罰金が科されることがあります。
これらの罰則は、たとえ使用者側に悪意がなく、計算ミスなどが原因であったとしても適用される可能性があります。
法令を遵守し、企業の社会的信用を損なわないためにも、正確な給与計算と賃金管理が不可欠です。

社労士 小栗の
アドバイス
未払い賃金は「遡及支払い」が必須。説明責任も重要。 > 罰則の適用以前に、最低賃金を下回る賃金を支払っていたことが判明した場合、企業は速やかに差額分を労働者へ「遡及(そきゅう)支払い」する義務を負います。この際、単に差額を支払うだけでなく、なぜそのような未払いが発生したのか、どう是正したのかを労働者に対して書面などで明確に説明することが、今後の信頼関係維持のために非常に重要です。労働基準監督署の是正勧告でも、遡及支払いの履行と再発防止策の策定が求められます。
最低賃金の給与計算に関するよくある質問
最低賃金の改定に伴う給与計算では、実務上の細かな疑問点が生じることが少なくありません。
「最新の最低賃金はどこで確認すればよいのか」「試用期間中の従業員にはどう適用されるのか」といった具体的な質問がよく寄せられます。
また、万が一、給与が最低賃金を下回っていた場合に労働者がとるべき対応についても、正しい知識を持つことが重要です。
ここでは、そうした最低賃金の給与計算に関するよくある質問とその回答をまとめ、疑問の解消を目指します。

Q1. 最新の最低賃金はどこで確認できますか?
最新の最低賃金額は、厚生労働省のウェブサイトや、各都道府県労働局のホームページで公式に発表されています。
最低賃金には、全ての労働者に適用される「地域別最低賃金」と、特定の産業に従事する労働者に適用される「特定(産業別)最低賃金」の2種類が存在します。
両方の最低賃金が適用される労働者の場合は、いずれか高い方の金額が適用されます。
そのため、自社が所在する都道府県の地域別最低賃金と、事業内容が該当する特定(産業別)最低賃金の両方を確認し、いずれか高い方の金額を上回るように賃金を設定する必要があります。

社労士 小栗の
アドバイス
労働者が地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金の両方に該当する場合、必ず高い方の金額を適用しなければならないという点は、給与計算担当者が毎年最も注意すべき点です。特に、製造業や特定の卸売業など、特定最低賃金が地域別最低賃金を上回っている産業で、その適用を見落とすと即座に法令違反となります。企業は、事業所の産業分類を正確に把握し、毎年秋の改定時期には両方の金額を比較検討するフローをマニュアル化することが不可欠です。
Q2. 試用期間中でも新しい最低賃金は適用されますか?
原則として、試用期間中の労働者であっても最低賃金は適用されます。
最低賃金法は、雇用形態や勤続年数に関わらず、全ての労働者を対象としているため、試用期間を理由に最低賃金額を下回る給与を支払うことは認められていません。
ただし、例外として「最低賃金の減額の特例許可制度」があります。
精神または身体の障害により著しく労働能力が低い者や、試の使用期間中の者など、特定の条件に該当する場合に、企業が都道府県労働局長の許可を受けることで、個別に最低賃金を下回る賃金を設定できます。
しかし、この許可を得るための要件は厳しく、基本的には試用期間中も改定後の最低賃金が適用されると考えるべきです。
Q3. 給与明細を見て最低賃金を下回っていることに気づいた場合はどうすればいいですか?
まず、自身の給与計算が正しいかを確認しましょう。
月給から通勤手当や残業代などの除外賃金を除いた上で、時給換算をしてみます。
その上で最低賃金を下回っている疑いがある場合は、はじめに会社の給与計算担当者や人事部に問い合わせて、計算根拠を確認するのがよいでしょう。
単なる計算ミスや解釈の違いである可能性もあります。
社内で話し合っても解決しない、あるいは会社が対応してくれない場合は、管轄の労働基準監督署内にある総合労働相談コーナーや、各都道府県労働局に相談することができます。
匿名での相談も可能であり、専門の相談員が対応してくれます。
まとめ
最低賃金の改定は、効力発生日以降の労働に対して適用されるのが大原則です。
給与の締め日によっては、計算期間の途中で時給が変更となり、日割り計算が必要になるため注意が必要です。
月給制の従業員も、時給換算して最低賃金を上回っているかを確認し、通勤手当や残業代などを除外して計算しなければなりません。
最低賃金はパートやアルバイトを含む全ての労働者が対象であり、下回った場合には罰則も定められています。
企業は法令を遵守し、労働者自身も自らの賃金に関心を持ち、正確な知識を身につけることが求められます。
法令のチェックまで手が回らない・従業員数が増えて対応しきれないなど給与計算のお悩みがございましたら、日本ペイロール株式会社にお問い合わせください。