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コラム

給与計算の控除項目とは?給与明細の各項目の計算方法を解説

2025.11.19

給与計算における控除とは、総支給額から天引きされる社会保険料や税金などを指します。
給与計算を始めたばかりの担当者にとって、控除項目の種類やそれぞれの計算方法を正確に理解することは、適切な給与支払いのための第一歩です。

この記事では、給与明細に記載される控除項目の基礎知識から、社会保険料や税金の具体的な計算方法、さらには計算ミスが起きた際の対処法や予防策まで、実務に沿って詳しく解説します。

これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。

現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。

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給与から天引きされる「控除」の基礎知識

給与計算における控除とは、会社が従業員の給与から天引きする社会保険料や税金などの合計額を指します。
給与明細では、基本給や各種手当を合計した「総支給額」から、この「控除額」が差し引かれ、最終的に従業員の銀行口座に振り込まれる金額が「差引支給額」、いわゆる手取り額となります。

控除には法律で定められたものと、会社と従業員の取り決めで天引きされるものがあり、それぞれ正しく計算し、処理することが法律で義務付けられています。

給与明細は「支給」「控除」「勤怠」の3要素で成り立っている

給与明細は、主に「支給」「控除」「勤怠」の3つのブロックで構成されています。
まず「勤怠」には、出勤日数や労働時間、残業時間などの勤務状況が記載されます。
次に「支給」には、基本給や役職手当、通勤手当といった会社から支払われる給与の内訳が記されています。

そして「控除」には、社会保険料や税金など、支給額から差し引かれる項目の内訳と合計額が記載されます。
この3つの要素を確認することで、従業員は自身の給与がどのように計算されたのかを詳細に把握できます。

給与計算における控除項目の種類一覧

給与から天引きされる控除項目は、大きく分けて「法定控除」と「法定外控除(協定控除)」の2種類です。
法定控除は、法律によって給与からの天引きが義務付けられている社会保険料や税金を指します。

一方、法定外控除は、会社と従業員との間の取り決めに基づいて天引きされるものです。
それぞれの内容を正しく理解し、適切に給与計算に反映させる必要があります。

法律で義務付けられている「法定控除」

法定控除とは、所得税法や地方税法、健康保険法などに基づき、給与から天引きすることが法律で定められている項目のことです。
具体的には、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料(40歳以上が対象)、雇用保険料といった社会保険料と、所得税、住民税の税金が該当します。

これらの項目は、従業員の意思に関わらず、会社が給与から差し引いて国や地方自治体に納付する義務を負っています。
そのため、給与計算担当者は各項目の計算方法を正確に理解し、間違いなく処理しなければなりません。

会社独自で設定する「法定外控除(協定控除)」

法定外控除(協定控除)は、法律による義務付けとは別に、会社が従業員との合意に基づいて給与から天引きする項目のことを指します。
これを実施するためには、労働組合との労働協約、または労働者の過半数を代表する者との間で労使協定を締結することが労働基準法で定められています。
法定外控除の具体例としては、社宅や寮の家賃、財形貯蓄の積立金、社員旅行の積立金、親睦会費、労働組合費などが挙げられます。

これらの項目を控除する場合は、必ず事前に労使協定を締結し、従業員に周知しておく必要があります。

社労士 小栗の
アドバイス

法定外控除を実施する上で最も重要な点は、労働基準法第24条の「賃金全額払いの原則」の例外として認められるための要件を満たすことです。具体的には、労働者の過半数を代表する者との書面による協定(労使協定)が必要です。協定がないまま家賃や親睦会費などを天引きすることは、違法な賃金控除にあたります。給与計算担当者は、新規の控除項目を設定する際は必ず労使協定の有無を確認し、その内容を正確に把握しておく必要があります。

【法定控除】社会保険料の計算方法を解説

法定控除の中でも、社会保険料は従業員の生活を保障する重要な制度であり、その計算は給与計算業務の根幹をなします。
社会保険料には健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料、雇用保険料の4種類があり、それぞれ計算の基となる金額や保険料率が異なります。

これらの保険料は、会社と従業員の双方が負担する仕組みとなっており、給与計算担当者は正確な知識をもって計算を行うことが求められます。

健康保険料は標準報酬月額をもとに算出する

健康保険料は、病気やけが、出産、死亡といった事態に備える公的医療保険制度の保険料です。
保険料額は、従業員の給与を一定の等級に区分した「標準報酬月額」に、加入している健康保険組合や全国健康保険協会(協会けんぽ)が定める保険料率を乗じて算出します。

標準報酬月額は、毎年4月から6月の給与の平均額を基に決定され、原則としてその年の9月から翌年8月まで適用されます。
算出された保険料は、会社と従業員が折半して負担するため、給与からは半額分が控除されます。

厚生年金保険料の計算式と保険料率

厚生年金保険料は、従業員が老齢、障害、死亡といった状態になった際に年金を受け取るための公的年金制度の保険料です。
計算方法は健康保険料と同様に、標準報酬月額に厚生年金保険料率を乗じて算出します。
厚生年金保険料率は2017年9月以降、18.3%で固定されています。

この保険料も健康保険料と同様に労使折半となっており、会社と従業員が半分ずつ(9.15%ずつ)負担します。
給与明細に記載されるのは、従業員が負担する半額分の金額です。

40歳以上が対象となる介護保険料の計算

介護保険料は、介護が必要になった際にサービスを受けるための公的保険制度の保険料で、40歳から64歳までの健康保険加入者が支払いの対象となります。
従業員が40歳に達した月から徴収が開始され、65歳に達する月の前月分まで支払う義務があります。

計算方法は、標準報酬月額に介護保険料率を乗じて算出します。
この介護保険料率も加入している健康保険組合などによって異なります。
算出された保険料は、健康保険料と同じく会社と従業員で折半して負担します。

雇用保険料は給与総額に保険料率をかけて求める

雇用保険料は、従業員が失業した際の給付や、育児・介護休業中の給付などの財源となる保険料です。
健康保険料や厚生年金保険料が標準報酬月額を基に計算されるのとは異なり、雇用保険料は毎月の給料や賞与といった賃金の総額に雇用保険料率を乗じて算出します。

この保険料率は、年度ごとに見直され、事業の種類(一般の事業、農林水産・清酒製造の事業、建設の事業)によって異なります。
また、負担割合も従業員と会社で異なり、会社側の負担が少し大きくなるように設定されています。

社労士 小栗の
アドバイス

健康保険料や厚生年金保険料の計算の基となる「標準報酬月額」は、原則として年に一度の「定時決定(算定基礎届)」で決まり、9月から翌年8月まで適用されます。しかし、昇給などで報酬が大幅に変動した際には、適用期間の途中でも「随時改定(月額変更届)」を行い、標準報酬月額を見直す必要があります。この随時改定の手続きを見落とすと、従業員の実態と異なる保険料を長期間にわたって控除し続けることになり、従業員の将来の年金額や健康保険の給付に影響を及ぼす可能性があります。給与計算担当者は、給与が大きく変動した月がないかを常にチェックする体制を整えましょう。

【法定控除】税金の計算方法を解説

給与から控除される税金には、国に納める「所得税」と、居住する市区町村に納める「住民税」の2種類があります。
これらは社会保険料と並ぶ法定控除の主要な項目であり、納税は国民の義務です。
会社は従業員に代わってこれらの税金を給与から天引きし、国や自治体に納付する「源泉徴収」という役割を担っています。

所得税と住民税では計算の仕組みや徴収方法が異なるため、それぞれの特徴を正しく理解しておくことが重要です。

所得税は「源泉徴収税額表」を用いて計算する

所得税は、個人の所得に対して課される国税であり、会社は毎月の給与から概算額を天引き(源泉徴収)します。
具体的な税額は、その月の総支給額から社会保険料などを差し引いた「課税対象額」と、扶養親族の人数をもとに、国税庁が毎年発行する「源泉徴収税額表」を用いて算出します。

この表を参照することで、該当する所得税額を機械的に求めることが可能です。
なお、毎月源泉徴収される所得税はあくまで概算額であり、年末調整によって1年間の正しい税額を算出し、過不足を精算する仕組みとなっています。

住民税は前年の所得をもとに市区町村が決定する

住民税は、都道府県および市区町村に納める地方税で、前年1年間の所得をもとに税額が計算されます。
会社員の場合、市区町村が計算した住民税額が「住民税課税決定通知書」として会社に送付され、会社はその通知書に基づいて、毎年6月から翌年5月までの12回に分けて毎月の給与から天引き(特別徴収)します。

そのため、所得税のように会社側で税額を計算する必要はなく、通知された控除額をそのまま徴収し、市区町村に納付します。
従業員の入退社があった場合は、所定の手続きが必要となります。

給与明細で控除額がマイナスになる理由

通常、給与明細の控除項目にはプラスの金額が記載されますが、稀にマイナスの数値が表示されることがあります。
これは、従業員に返金すべき金額が発生したことを意味しており、決して計算ミスや異常ではありません。

控除額がマイナスになる主な理由としては、年末調整による所得税の還付や、過去の給与計算で発生した誤りを当月分で訂正・精算するケースが挙げられます。
担当者はこれらのケースについて正しく理解し、従業員から質問があった際に説明できるようにしておくことが大切です。

年末調整によって所得税の還付金が発生したケース

年末調整は、毎月の給与から源泉徴収された所得税の年間合計額と、その年の確定した所得に対する本来の所得税額との差額を精算する手続きです。
生命保険料控除や地震保険料控除、住宅ローン控除など、各種控除を適用した結果、源泉徴収額が本来の税額を上回っている場合があります。

この場合、差額は還付金として従業員に返還されます。
この還付金を12月の給与で精算するため、所得税の項目がマイナスで表記され、その分、手取り額が増えることになります。

過去の給与計算の誤りを訂正したケース

過去の給与計算において、社会保険料やその他の控除項目を誤って多く徴収してしまった場合、その差額を従業員に返金する必要があります。
この精算を当月の給与で行う際、該当する控除項目をマイナスの金額で計上し、相殺処理をすることがあります。

例えば、本来よりも高い社会保険料を控除していた場合、翌月の給与計算で差額分をマイナス計上し、正しい金額に調整します。
これにより、結果的に従業員への返金が行われ、正しい控除額での精算が完了します。

給与計算で控除額を間違えた場合の正しい対処法

給与計算における控除額の計算ミスは、従業員の生活に直接影響を与え、会社への信頼を損なう可能性があります。
万が一、間違いが発覚した場合には、隠さずに迅速かつ誠実に対応することが何よりも重要です。

適切な対処法は、まず従業員へ丁寧に説明と謝罪を行い、その上で速やかに差額を精算するという手順を踏むことです。
この一連の対応を適切に行うことで、従業員との信頼関係の悪化を最小限に食い止めることができます。

従業員への速やかな説明と謝罪を行う

控除額の計算ミスが発覚したら、まず最初に、対象となる従業員に対して速やかに事実を報告し、誠心誠意謝罪することが不可欠です。
その際、どの項目でどのような誤りがあったのか、ミスの原因、そして今後どのように訂正・精算するのかを具体的に、かつ分かりやすく説明する必要があります。
特に、法定外控除に関する間違いの場合は、労使協定の内容を再確認しながら説明することが求められます。

曖昧な説明は従業員の不信感を増幅させるため、透明性のある情報開示と真摯な態度で臨むことが重要です。

翌月の給与で差額を調整して精算する

従業員への説明と同意を得た後、具体的な精算作業に入ります。
一般的には、翌月の給与支払い時に差額を調整する方法が取られます。
控除額が不足していた場合は、同意を得た上で翌月の給与から追加で徴収します。
逆に、控除しすぎていた場合は、差額分を給与に上乗せして返金します。

この調整により、従業員の翌月の手取り額が通常と異なることになるため、給与明細に調整内容を明記するなど、従業員が内訳を明確に確認できるように配慮することが不可欠です。

控除額の計算ミスを未然に防ぐための対策

給与計算における控除額の計算ミスは、従業員との信頼関係を損なうだけでなく、修正作業にも多大な時間と労力を要します。
そのため、ミスが発生した後の対処法も重要ですが、それ以上にミスを未然に防ぐための体制を構築することが肝心です。

具体的な対策としては、人為的なミスを減らすためのチェック体制の強化や、効率的で正確な処理を可能にするシステムの活用が挙げられます。
これらの予防策を講じることで、給与計算業務の品質と信頼性を高めることができます。

複数人によるダブルチェック体制を整える

ヒューマンエラーを防ぐための基本的な対策として、複数人によるダブルチェック体制の構築が非常に有効です。
一人の担当者が計算から入力まで全てを行うのではなく、計算担当者と確認担当者を分けることで、客観的な視点でのチェックが可能になります。
計算過程での見落としや単純な入力ミスなどを別の担当者が発見しやすくなります。

また、社会保険料率や税率の改定など、法改正に関する情報を部署内で共有し、定期的に知識をアップデートする機会を設けることも、ミスを減らす上で重要です。

ヒューマンエラーを減らす給与計算システムを活用する

手計算や表計算ソフトによる給与計算は、自由度が高い反面、計算式の誤りや手入力によるミスなど、ヒューマンエラーが発生しやすい環境といえます。
こうしたリスクを抜本的に解決するためには、給与計算システムの導入が効果的です。

多くの給与計算システムでは、社会保険料率や税率の法改正に自動で対応し、複雑な計算を自動で行ってくれます。
これにより、計算ミスのリスクを大幅に低減できるだけでなく、担当者の業務負担を軽減し、より効率的で正確な給与計算業務を実現できます。

まとめ

給与計算における控除項目は、健康保険料や厚生年金保険料などの社会保険料、所得税や住民税といった税金からなる「法定控除」と、労使協定に基づいて天引きされる社宅家賃などの「法定外控除」に大別されます。
各項目には法律や規定に基づいた計算方法があり、担当者はこれを正確に理解し処理しなければなりません。

計算ミスを防ぐためのダブルチェック体制や給与計算システムの活用も重要です。
万が一ミスが発生した場合は、迅速な報告と誠実な対応で従業員との信頼関係を維持することが求められます。

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