月の途中で入社や退職があった場合、月給制で働く従業員の賃金は日割りで計算する必要があります。
この計算過程では、基本給や各種手当を含めた月給を日数で割るため、1円未満の端数が生じることがあります。
この端数をルールに沿って処理することを「端数処理」と呼びます。
日割り計算の方法や端数処理のルールは法律で具体的に定められていないため、企業ごとに就業規則で規定しておくことが、後のトラブルを避ける上で極めて重要になります。
この記事の監修

日本ペイロール株式会社
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
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給与の日割り計算で端数処理が必要になる主なケース
月給制の従業員に対して給与の日割り計算が必要になるのは、主に月の途中での入社や退職、欠勤、遅刻・早退があった場合です。
これらのケースでは、労働契約で定められた月給の満額を支払うのではなく、実際に労働した日数や時間、あるいは在籍した日数に応じて給与額を算出します。
この按分計算の過程で、割り切れない数字、つまり1円未満の端数が発生することが頻繁にあります。
そのため、日割り計算と端数処理はセットで考える必要があります。


社労士 小栗の
アドバイス
日割り計算の方法は、「賃金全額払いの原則」(労働基準法第24条)に抵触しないよう、公平性を最優先すべきです。特に欠勤控除の際、労働者にとって不利にならないよう、複数の計算パターンをシミュレーションして決定しましょう。
日割り計算と端数処理のルールは法律で決まっている?
給与の日割り計算の具体的な方法や、その際に生じる端数の処理方法について、労働基準法などの法律に明確な規定はありません。
法律で定められているのは、労働が提供されなかった分については企業に賃金の支払い義務がないとする「ノーワーク・ノーペイの原則」です。
この原則に基づき、日割り計算や欠勤控除が行われますが、その詳細な計算ルールは各企業の裁量に委ねられています。
そのため、企業は就業規則などで合理的かつ公平なルールを独自に定め、それに沿って運用することが求められます。
給与の日割り計算で用いられる代表的な3つの方法
給与の日割り計算には法律で定められた統一のルールがないため、企業は自社の状況に合わせて計算方法を定めます。
どの方法を採用するかによって、同じ基本給や手当を含む月給であっても支給額が変わる可能性があります。
代表的な計算方法としては、「暦日数」「各月の所定労働日数」「年間平均の所定労働日数」を基準にする3つの方法が挙げられます。
いずれの方法を選択するにしても、就業規則にその計算方法を明記し、一貫性のある運用を行うことが重要です。

暦日数をもとに計算する方法
この方法は、対象となる月の暦日数(30日、31日、2月であれば28日または29日)を分母として日割り計算を行います。
具体的な計算式は「月給÷その月の暦日数×在籍日数」となります。
計算がシンプルで分かりやすい点がメリットですが、暦日数が少ない月は1日あたりの単価が高くなり、暦日数が多い月は単価が低くなるという特徴があります。
そのため、同じ日数だけ欠勤した場合でも、月によって控除額に差が生じる可能性があります。
多くの企業で採用されている一般的な方法の一つですが、月ごとの変動を考慮しておく必要があります。
各月の所定労働日数をもとに計算する方法
この計算方法は、月ごとに定められた企業の所定労働日数を分母に用いる点が特徴です。
計算式は「月給÷その月の所定労働日数×実際の出勤日数」となります。
祝日の数などによって月々の所定労働日数は変動するため、1日あたりの給与単価も毎月変わります。
この方法は、実際に労働した日数に基づいて給与を算出するため、労働の対価という観点から見ると「ノーワーク・ノーペイの原則」に最も忠実で、公平性が高い方法とされています。
ただし、毎月分母となる日数が変わるため、暦日数で計算する方法よりも管理が少し複雑になります。
年間平均の所定労働日数をもとに計算する方法
この方法は、まず「年間の総所定労働日数÷12ヶ月」という計算で、1ヶ月あたりの平均所定労働日数を算出します。
そして、その平均日数を分母として「月給÷年間平均の月所定労働日数×実際の出勤日数」という式で日割り給与を計算します。
この方法の最大のメリットは、月ごとの所定労働日数の変動に左右されず、1日あたりの単価が年間を通して一定になる点です。
これにより、どの月に入退社や欠勤が発生しても計算上の公平性を保ちやすく、給与計算業務の効率化にも繋がります。
事前に年間カレンダーに基づいた正確な平均日数の算出が必要です。
計算で出た1円未満の端数はどう処理する?
給与の日割り計算を行うと、計算結果に1円未満の端数が発生することがあります。
この端数処理についても法律に明確な規定はありませんが、労働基準法第24条で定められた「賃金全額払いの原則」を考慮する必要があります。
この原則により、企業が労働者の不利益になるような処理、例えば常に端数を切り捨てる、といった対応を一方的に行うことはできません。
トラブルを避けるためにも、端数をどのように処理するのか、あらかじめ就業規則でルールを定めておくことが不可欠です。


社労士 小栗の
アドバイス
日割り計算で都度生じる1円未満の端数処理は、原則「切り上げ」や「四捨五入」で定めます。ただし、1ヶ月の賃金支払総額に対する100円未満の端数処理など、行政通達で認められている例外規定は就業規則上、明確に分けて記載しましょう。
就業規則で定めたルールに従うのが原則
1円未満の賃金の端数処理については、法律上の具体的な規定が存在しないため、各企業が就業規則において独自のルールを定めて運用するのが一般的です。
考えられる処理方法には「切り捨て」「切り上げ」「四捨五入」の三つがあります。
ただし、労働基準法の「賃金全額払いの原則」に抵触しないよう、労働者にとって不利益とならない方法を選択することが基本です。
特に、常に切り捨てとする方法は労働者の不利益につながるため、これを適法に行うには労使協定の締結が必要とされます。
一般的には、従業員に不利益が生じない「切り上げ」や、合理性が認められやすい「四捨五入」を採用することが推奨されます。
端数処理の具体例【切り上げ・切り捨て・四捨五入】
賃金の日割り計算によって生じる1円未満の端数処理については、労働基準法において具体的な定めはありません。ただし、就業規則(賃金規程)で処理方法を定めることが可能です。労働者にとって不利益にならない方法であれば問題ないとされています。
例えば、計算結果が「15万555円50銭」となった場合の端数処理を考えます。
「切り上げ」を採用する場合、支給額は「15万556円」となります。
「切り捨て」の場合は「15万555円」です。
そして「四捨五入」を適用すると「15万556円」になります。
賃金全額払いの原則(労働基準法第24条)に基づき、労働者に不利な取り扱いとならないよう、一般的には「切り上げ」が最も安全な方法とされています。 「四捨五入」も社会通念上、合理的と判断されることが多いです。
一方、「切り捨て」は労働者に不利益を与える可能性があるため、原則としては認められません。 しかし、1ヶ月の賃金支払額における端数処理においては、特定の例外が認められています。具体的には、1ヶ月の賃金支払額に100円未満の端数が生じた場合、50円未満を切り捨て、50円以上を100円に切り上げることや、1,000円未満の端数を翌月の賃金支払日に繰り越して支払うことが、就業規則に定めることで例外的に可能です。 また、割増賃金の計算において、1時間あたりの賃金額や割増賃金額に1円未満の端数が生じた場合、50銭未満を切り捨て、50銭以上を1円に切り上げることも認められています。 これらの処理を行う場合は、就業規則に明記し、労働者への周知が必要です。
日割り計算の対象に含める手当・含めない手当の範囲
給与の日割り計算を行う際、月給のどの範囲までを計算の基礎に含めるかを明確に定めておく必要があります。
基本給が対象となることは当然ですが、各種手当の扱いについてはその性質によって異なります。
例えば、役職手当や資格手当のように、個人の役職やスキルに対して毎月固定で支払われる賃金は日割り計算の対象に含めるのが一般的です。
一方で、通勤手当や住宅手当といった実費弁償的・福利厚生的な手当については、企業の就業規則の定めによって日割り計算の対象とするかどうかが決まります。
【ケース別】給与の日割り計算と端数処理の具体例
給与計算の実務では、中途入社や退職、欠勤といった様々な状況で日割り計算が発生します。
ここでは、月給(基本給と諸手当を含む賃金)を基に、具体的なケースに応じた計算例を紹介します。
ただし、これから示す計算方法はあくまで一例です。
実際の計算にあたっては、自社の就業規則に定められた計算方法や端数処理のルールを必ず確認し、それに従って処理を進める必要があります。
自社の規定と照らし合わせながら、正確な給与計算を行いましょう。

月の途中で入社した社員の給与計算
月の途中で入社した社員の給与は、入社日からその月の末日までの在籍日数に基づいて日割りで計算されます。
例えば、月給30万円(基本給25万円、諸手当5万円)の社員が、4月16日に入社したケースを考えます(4月の暦日数は30日)。
暦日数で計算する場合、計算式は「30万円÷30日×15日間(16日〜30日)」となり、支給額は15万円です。
この計算に用いる方法は、暦日数基準のほか、所定労働日数基準など、就業規則の定めに従います。
計算過程で1円未満の端数が出た場合は、同様に就業規則で定められた「切り上げ」や「四捨五入」などのルールで処理します。
月の途中で退職した社員の給与計算
月の途中で退職した社員の給与も、月の初日から退職日までの在籍日数に応じて日割り計算するのが一般的です。
例として、月給30万円(基本給25万円、諸手当5万円)の社員が、4月20日に退職したケースを考えます(4月の暦日数は30日)。
暦日数を用いて計算する場合、「30万円÷30日×20日間(1日〜20日)」となり、支給額は20万円です。
ただし、企業によっては就業規則に「月の途中で退職した場合でも、その月の月給は全額支給する」といった規定を設けていることもあります。
その場合は規定に従う必要があり、トラブル防止のためにも退職者への丁寧な説明が求められます。
欠勤した際の給与控除額の計算
月給制の社員が欠勤した場合、ノーワーク・ノーペイの原則に基づき、働かなかった日数分の給与を月給から差し引く「欠勤控除」を行います。
控除額の算出方法は、企業の就業規則に定められた日割り計算のルールを適用します。
例えば、月給30万円(基本給25万円、諸手当5万円)で、その月の所定労働日数が20日の月に2日間欠勤したとします。
所定労働日数で計算する場合、1日あたりの給与額は「30万円÷20日=1万5千円」です。
したがって、控除額は「1万5千円×2日=3万円」となり、その月の支給額は27万円になります。
どの手当を控除対象に含めるかも規定によります。
遅刻や早退をした際の給与控除額の計算
遅刻や早退についても、欠勤と同様にノーワーク・ノーペイの原則が適用され、労働しなかった時間分の給与を控除できます。
計算するには、まず1時間あたりの賃金額を算出する必要があります。
これは一般的に「月給÷1ヶ月の平均所定労働時間」で求めます。
例えば、月給30万円(基本給25万円、諸手当5万円)、月の平均所定労働時間が160時間の場合、1時間あたりの賃金は1,875円です。
もし月に合計2時間の遅刻・早退があった場合、控除額は「1,875円×2時間=3,750円」となります。
分単位で細かく計算するなど、具体的な控除ルールは就業規則で定めておく必要があります。
給与の日割り計算でトラブルを防ぐための3つの注意点
給与の日割り計算や端数処理は、法律に詳細な規定がないため、そのルールは各企業の裁量に委ねられています。
しかし、この裁量の広さが原因で、従業員との間で認識の齟齬が生じ、賃金をめぐるトラブルに発展するケースも少なくありません。
従業員の不信感を招かないためにも、計算ルールを明確化し、公平性を保ち、法律上の制約を正しく理解しておくことが重要です。
ここでは、月給の日割り計算を適切に行い、トラブルを未然に防ぐための重要なポイントを解説します。

計算ルールは就業規則に必ず明記する
給与の日割り計算に関するトラブルを回避するための最も効果的な対策は、計算のルールを就業規則に具体的かつ明確に記載することです。
具体的には、「日割り計算が発生する事由(中途入退社、欠勤など)」「計算の基礎となる賃金の範囲(どの手当を対象とするか)」「具体的な計算方法(暦日数基準か、所定労働日数基準かなど)」、そして「1円未満の端数処理の方法(切り上げ、四捨五入など)」を網羅的に定めておく必要があります。
規定が明確であれば、従業員への説明責任を果たしやすくなり、万が一の紛争時にも企業側の正当な根拠として機能します。
労働者に不利益となる一方的な切り捨ては避ける
賃金の日割り計算やそれに伴う端数処理において、企業が一方的に労働者の不利益となるルールを適用することは、トラブルの原因となるため避けるべきです。
特に、計算の結果生じた1円未満の端数を常に「切り捨て」で処理する方法は、労働基準法第24条が定める「賃金全額払いの原則」に違反する可能性があります。
このような処理を適法に行うためには、労働組合との労働協約や、労働者の過半数代表者との労使協定を締結するといった手続きが求められます。
法令遵守と良好な労使関係の観点から、端数処理は「切り上げ」または「四捨五入」とするのが賢明です。
社会保険料や税金は日割り計算できないことを理解する
月の途中で入社や退職が発生した場合でも、社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)や雇用保険料、所得税は、給与のように日割り計算ができない点を正確に理解しておく必要があります。
社会保険料は月単位で計算され、資格取得日(入社日)の属する月から発生し、資格喪失日(退職日の翌日)の属する月の前月分までが徴収対象です。
つまり、月末に在籍していれば、その月の社会保険料は満額かかります。
雇用保険料や所得税も、日割り計算した後の支給月給の総額を基に計算されるため、給与の日割りとは連動しない独立したルールで控除額が決まります。

社労士 小栗の
アドバイス
計算ルールを定めたら、就業規則の労働者への周知徹底と労働基準監督署への届出を必ず行いましょう。入退社や欠勤控除の際には、計算根拠を明示し、従業員に対して「なぜこの金額になるのか」を具体的に説明することが、信頼関係を築く上で不可欠です。
まとめ
月給制で働く従業員の賃金に関する日割り計算や端数処理には、法律による一律のルールが存在しません。
そのため、各企業は就業規則において、計算の対象となる基本給や手当の範囲、具体的な計算方法、端数処理のルールを明確に規定し、それに従って一貫した運用を行う必要があります。
特に、労働者に不利益が生じないような公平なルールを設定することが、従業員との信頼関係を維持し、無用なトラブルを避ける上で不可欠です。
また、社会保険料などは日割り計算の対象外であることも念頭に置き、正確な給与計算を心がけましょう。