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コラム

給与計算での有給管理|3つの賃金計算方法とシステム導入のポイント

2025.11.19

従業員の有給休暇を適切に管理し、給与計算へ正しく反映させることは、企業の労務管理において非常に重要です。
有給休暇の取得は労働者の権利であり、企業には法律に基づいた管理が求められます。
本記事では、有給休暇の付与条件といった基本から、実務で必要となる3つの給与計算方法、法改正に対応するための注意点までを網羅的に解説します。

さらに、煩雑になりがちな管理業務を効率化するためのシステム導入のポイントも紹介し、担当者の負担軽減と正確な業務遂行を支援します。

これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。

現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。

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給与計算における有給管理の基本

給与計算における有給管理は、労働基準法に定められたルールを遵守し、従業員一人ひとりの権利を正確に守るために不可欠です。
年次有給休暇は、法律で定められた条件を満たしたすべての労働者に付与される権利であり、企業はその付与日数や取得状況を正確に把握し、管理する義務を負います。

特に、2019年の法改正による年5日の取得義務化など、法的な要請への対応は必須です。
この管理を怠ると、法的な罰則のリスクだけでなく、従業員との信頼関係を損なう原因にもなり得ます。

そもそも年次有給休暇とは?付与される2つの条件を解説

年次有給休暇は、心身の疲労を回復し、ゆとりある生活を保障するために設けられた、賃金が支払われる休暇制度です。
この休暇を取得する権利は、以下の2つの条件を両方満たしたすべての労働者に発生します。
1つ目の条件は、雇入れの日から起算して6か月間継続して勤務していることです。
2つ目の条件は、その6か月間の全労働日のうち8割以上出勤していることです。

この条件を満たせば、勤続年数に応じた日数の有給休暇が付与され、以降は1年ごとに勤続年数が増えるタイミングで、同様に出勤率の条件を満たしていれば新たな休暇が付与されます。
この基準は、雇用形態に関わらず適用されるため、所定の労働時間を満たすパートタイム労働者にも付与されます。

正社員とパート・アルバイトで異なる有給休暇の付与日数

有給休暇の付与日数は、従業員の所定労働日数によって異なります。
週の所定労働日数が5日以上、または週の所定労働時間が30時間以上のフルタイム労働者(正社員など)の場合、入社から6か月後に10日付与され、以降は勤続年数に応じて最大20日まで増加します。

一方、週の所定労働日数が4日以下で、かつ週の所定労働時間が30時間未満のパートタイム労働者やアルバイトなどの短時間労働者には、「比例付与」という方式が適用されます。
比例付与では、週の所定労働日数に応じて付与日数が決まり、例えば週1日の勤務であれば入社6か月後に1日、週4日勤務であれば7日付与されるなど、フルタイム労働者よりも少ない日数となります。

社労士 小栗の
アドバイス

有給休暇の付与は、原則として従業員の雇入れ日から起算して個別に管理する必要があります。ただし、管理の煩雑さを軽減するため、全従業員の付与日を統一する「斉一的取扱い」も認められています。この場合、初年度の付与日数を法律を下回らないように調整する特別の措置が必要です。また、出勤率を計算する際は、業務上の負傷による休業期間や育児・介護休業期間、不可抗力による休業日などは「出勤したものとみなす」期間として扱う必要があるため、単に欠勤日数だけをカウントしないよう注意が必要です。

有給休暇を取得した日の賃金計算|3つの方法を解説

従業員が有給休暇を取得した際に支払う賃金の計算方法は、法律で3つのパターンが認められています。
どの計算方法を選択するかは企業に委ねられていますが、あらかじめ就業規則に明記しておく必要があります。
選択した計算方法によって従業員が受け取る賃金額が変動する可能性があるため、それぞれの計算式と特徴を正しく理解し、自社の給与体系や従業員の勤務形態に最も適した方法を定めることが求められます。

一度定めたルールは、従業員間で不公平が生じないよう、一貫して適用しなければなりません。

方法1:通常勤務時と同じ賃金を支払うケース

最もシンプルで分かりやすい計算方法が、有給休暇を取得した日も通常通り勤務したものとみなして賃金を支払う方法です。
多くの企業で採用されており、従業員にとっても受け取る金額が明確なため、理解を得やすいというメリットがあります。
月給制の固定給で働く従業員の場合は、有給休暇を取得しても給与額は変動しません。
欠勤控除の対象外とするだけで対応が完了します。

時給制の従業員であれば、「時給×その日の所定労働時間」で算出します。
日給制の場合は、その日の日給額がそのまま支払われます。
この方法は計算が容易であるため、給与計算担当者の負担を軽減できます。

方法2:過去3ヶ月間の平均賃金で計算するケース

過去3か月間の賃金実績に基づいて支払額を決定する方法が、平均賃金を用いた計算です。
この方法は、特に残業時間やインセンティブによって毎月の給与額が変動する従業員や、日給制、歩合給制の従業員に適しています。

平均賃金の計算には2通りの方法があり、①「算定期間(直近3か月)の賃金総額÷その期間の総日数(暦日数)」と、②「算定期間の賃金総額÷その期間の労働日数×60%」を計算し、いずれか金額の高い方を採用します。
この計算における賃金総額には、通勤手当や残業代なども含まれますが、賞与や臨時的に支払われた賃金は除外されるため、対象となる手当の範囲を正確に把握しておく必要があります。

方法3:健康保険の標準報酬日額を基に算出するケース

健康保険法で定められている標準報酬月額を基に、有給休暇1日あたりの賃金を算出する方法です。
標準報酬月額とは、社会保険料を計算するために、従業員の月々の給与を一定の区切りで分けた等級のことで、これを30で割った金額が「標準報酬日額」となります。

この方法を導入するためには、事前に従業員の過半数で組織する労働組合、または従業員の過半数を代表する者との間で労使協定を締結することが必須条件です。
標準報酬月額は毎年見直され、給与額が大幅に変動した際にも改定されるため、常に最新の金額を確認しなければなりません。
計算が簡便である一方、実際の賃金よりも低くなる場合もあるため、導入には慎重な検討が求められます。

どの計算方法を選ぶべき?就業規則への明記が必須

有給休暇取得日の賃金計算方法は、企業の実情に合わせて3つの選択肢から選ぶことができます。
例えば、月給制の従業員が多い場合は「通常勤務時と同じ賃金」を、給与の変動が大きい従業員がいる場合は「平均賃金」を用いるなど、従業員の給与形態を考慮して決定するのが一般的です。

どの方法を選択しても問題ありませんが、法的な要件として、採用した計算方法を就業規則に必ず明記しなければなりません。
就業規則に記載することで、社内ルールが明確になり、労使間のトラブルを未然に防ぎます。
また、一度定めた計算方法は原則として継続して適用する必要があり、従業員によって計算方法を変えるといった不公平な取り扱いは認められません。

社労士 小栗の
アドバイス

賃金計算方法を就業規則に明記する際、特に「方法3:標準報酬日額」を採用する場合は、労使協定の締結就業規則への明記の双方が必須です。どちらか一方が欠けても、その計算方法は無効となります。また、就業規則に記載するだけでは不十分で、従業員への周知徹底(見やすい場所への掲示、書面交付、データ共有など)を行う義務があります。賃金計算の根拠は従業員の関心が高い事項であるため、従業員からの問い合わせに明確に答えられるよう、担当者は計算方法の詳細を正しく理解しておく必要があります。

給与計算で有給管理をするときの4つの注意点

給与計算における有給管理は、単に日数を数え、賃金を支払うだけではありません。
法改正への対応や細かな社内ルールの設定など、経理や人事担当者が注意すべき点が複数存在します。

特に、有給休暇の繰り越しルール、年5日の取得義務、各種手当の取り扱い、そして退職時の対応は、誤ると法律違反や従業員とのトラブルに直結する可能性があります。
これらの注意点を正しく理解し、適切に運用していくことで、コンプライアンスを遵守した健全な企業運営を実現します。

有給休暇には2年間の有効期限(繰り越し)がある

労働基準法により、有給休暇の請求権には2年間の時効が定められています。
これは、年度内に消化しきれなかった有給休暇の日数が、翌年度に限り繰り越せることを意味します。
例えば、ある年度に付与された休暇が10日あり、そのうち4日しか使わなかった場合、残りの6日は翌年度に持ち越され、その年に新たに付与される日数に加算されます。

繰り越し分と新規付与分がある場合、どちらから消化するかについては法律上の規定はありません。
しかし、従業員の不利益にならないよう、通常は有効期限が先に到来する古いものから消化させるのが一般的です。
このルールを就業規則で明確にしておくと、管理がスムーズになり、従業員の混乱も避けられます。

年10日以上付与される従業員は年5日の取得が義務

2019年4月の労働基準法改正により、年間の有給休暇付与日数が10日以上のすべての労働者に対し、付与日から1年以内に最低5日間を取得させることが企業の義務となりました。
この義務は、正社員だけでなく、条件を満たすパートタイムやアルバイト労働者も対象です。

企業は、従業員ごとの有給休暇の取得状況を正確に把握し、取得日数が5日に満たない従業員に対しては、本人の希望を聞いた上で時季を指定して取得させなければなりません。
この義務を怠った場合、対象となる労働者1人につき30万円以下の罰金が科される可能性があります。
管理を徹底するため、「年次有給休暇管理簿」を作成し、従業員ごとに基準日、付与日数、取得日数を記録して3年間保存することが求められます。

皆勤手当や通勤手当の支給ルールを明確にしておく

有給休暇の取得を理由として、従業員に不利益な取り扱いをすることは法律で禁止されています。
例えば、有給休暇を取得した日を欠勤扱いとし、賞与や昇給の査定でマイナス評価をしたり、皆勤手当を支給しなかったりすることは認められません。
皆勤手当の算定においては、有給休暇を取得した日を出勤日として扱う必要があります。

一方で、通勤手当は実費弁償的な性質を持つため、出勤していない有給休暇取得日分の支給をしないと定めても、必ずしも違法とはなりません。
ただし、こうした手当の取り扱いについては、後々のトラブルを避けるために、支給条件や計算方法を就業規則や賃金規程に具体的に明記し、従業員に周知しておくことが不可欠です。

退職時に残った有給休暇の処理方法

従業員が退職する際に未消化の有給休暇が残っている場合、従業員から取得の申し出があれば、企業は原則としてこれを拒否できません。
退職予定日までに残りの有給休暇をすべて消化することも可能です。
企業側が業務の引き継ぎなどを理由に取得時季を変更する「時季変更権」の行使は、退職日を超えて勤務日をずらすことができないため、退職を控えた従業員に対しては行使できないとされています。

有給休暇の買い取りは、本来の趣旨に反するため原則として法律で禁止されていますが、退職によって権利が消滅してしまう未消化分については、労使間で合意の上であれば、買い取って金銭を支払うことも例外的に認められます。
その際の金額や条件は、事前に取り決めておくと円滑に進みます。

社労士 小栗の
アドバイス

企業が時季を指定して有給休暇を取得させる場合、従業員側の意見を尊重することが重要です。一方的に指定するのではなく、まずは従業員の希望を聞き取り、その上で残りの日数を消化させるために時季を指定します。時季指定を行う際は、書面(年次有給休暇時季指定書など)により通知し、証拠を残すことが望ましいです。特に、従業員が全く有給を取得しない場合でも、企業は「年次有給休暇管理簿」に基づき、確実に5日間を取得させる義務があることを忘れてはいけません。

有給管理を効率化するなら給与計算システムの導入がおすすめ

従業員が増えるにつれて煩雑さを増す有給管理は、手作業ではミスや漏れが発生しやすくなります。
特に、法改正への対応や従業員ごとの複雑な付与・消化状況の管理は、担当者にとって大きな負担です。
こうした課題を解決し、業務を大幅に効率化する手段として、給与計算システムの導入が有効です。

システムを活用することで、管理業務の自動化やペーパーレス化が進み、担当者はより戦略的な業務に集中できるようになります。
自社の規模や運用方法に合ったシステムを選ぶことが、スムーズな導入と効果の最大化につながります。

Excel(エクセル)管理で起こりがちな人的ミスと管理の煩雑さ

多くの企業で、有給管理にエクセルが利用されています。
手軽に始められる一方で、従業員数が増えると管理が非常に煩雑になり、様々な問題が生じやすくなります。
例えば、手入力による付与日数や残日数の計算間違い、関数や数式の破損、ファイルの更新漏れといった人的ミスが起こるリスクがあります。

また、年5日の取得義務化など、頻繁な法改正に対応するためには、その都度シートの設計を見直す必要があり、専門知識が求められます。
さらに、管理ファイルが特定の担当者に属人化しやすく、その担当者が不在の際に業務が滞る可能性も否定できません。
これらの課題は、企業のコンプライアンス遵守や業務継続性の観点からも見過ごせない問題です。

システム導入で有給管理の自動化を実現するメリット

給与計算システムや勤怠管理ツールを導入することで、有給管理に関する多くの手作業を自動化できます。
従業員の入社日や勤続年数に基づいた付与日数の自動計算、休暇申請・承認プロセスの電子化、リアルタイムでの残日数や取得状況の可視化などが実現可能です。
これにより、計算ミスや管理漏れといったヒューマンエラーを大幅に削減できます。

また、年5日の取得義務に関しても、対象者や取得状況を自動で抽出し、アラート機能で管理者に通知してくれるため、コンプライアンス遵守が容易になります。
担当者の業務負担が軽減されるだけでなく、従業員自身もいつでも自分の有給残日数を確認できるため、計画的な休暇取得が促進されるというメリットもあります。

自社に合った給与計算システムを選ぶ際の比較ポイント

有給管理を効率化する給与計算システムを選ぶ際には、いくつかの比較ポイントがあります。
まず、自社の従業員規模や業種、勤務形態の多様性に対応できるかを確認します。

次に、現在使用している勤怠管理システムや労務管理ソフト、会計ソフトなどとスムーズに連携できるかも重要な選定基準です。
データの連携が容易であれば、二重入力の手間が省け、業務全体の効率が向上します。
また、法改正に迅速に対応できる自動アップデート機能の有無や、導入時や運用中のサポート体制が充実しているかも確認が必要です。
操作画面の分かりやすさや、コストパフォーマンスも考慮し、複数のシステムを比較検討すること、可能であれば無料トライアルを活用して実際の使用感を確かめることが推奨されます。

まとめ

正確な給与計算とコンプライアンス遵守の観点から、有給管理は労務管理の中核をなす業務です。
有給休暇の付与条件や賃金計算方法を正しく理解し、就業規則に明記することは、労使間のトラブルを未然に防ぎます。
また、年5日の取得義務や繰り越しルールといった法的な要請に確実に対応しなければなりません。

手作業での管理には限界があり、人的ミスや業務負担の増大といった課題が伴います。
給与計算システムを導入することで、これらの業務を自動化・効率化し、より正確で信頼性の高い管理体制を構築できます。
自社の状況に適した方法やツールを選択することが、健全な企業運営に不可欠です。

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