従業員が75歳以上になると、会社の健康保険から「後期高齢者医療制度」へ自動的に移行します。
この切り替えに伴い、企業では社会保険に関する手続きや給与計算の変更が必要になります。
本記事では、従業員が75歳を迎えた際の手続き、後期高齢者医療制度への移行に伴う給与計算の変更点、そして被扶養者がいる場合の対応について解説します。
この記事の監修

日本ペイロール株式会社
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
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75歳になると会社の健康保険から後期高齢者医療制度へ移行する
従業員が75歳になると、本人の意思にかかわらず、加入している会社の健康保険(健保)の資格を喪失し、「後期高齢者医療制度」に加入することになります。
これは法律で定められた制度であり、全ての国民が対象です。
会社の健康保険組合や協会けんぽに加入している場合でも、75歳の誕生日当日をもって自動的に資格が切り替わります。
そのため、企業側は従業員の資格喪失に関する手続きを正確に行う必要があります。
従業員が75歳になったら健康保険の資格喪失手続きを行う
従業員が75歳に到達した場合、企業は健康保険の資格喪失手続きを行わなければなりません。
具体的には、75歳の誕生日から5日以内に「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を管轄の年金事務所または事務センターへ提出します。
この際、資格喪失の原因として「75歳到達(後期高齢者医療制度加入)」を選択します。
従業員本人や被扶養者の保険証も返却する必要があるため、速やかに回収し、届出書に添付して提出します。

社労士 小栗の
アドバイス
健康保険料は、資格を喪失した月の前月分までが発生します。75歳の誕生日が月の1日であれば、その前月(資格喪失日を含む月)に資格を喪失するため、その月の保険料は発生しません。しかし、誕生日が月の2日以降であれば、資格喪失は誕生月の月末となるため、誕生月分の保険料までが発生し、給与から徴収が必要です。給与計算を誤らないよう、資格喪失日と給与控除のタイミングを正確に把握してください。
【給与計算】75歳以降は健康保険料の天引きが不要になる
従業員が75歳になり後期高齢者医療制度へ移行すると、給与計算における健康保険料の取り扱いが変わります。
会社の健康保険の資格を喪失するため、75歳になった月以降の給与や賞与から健康保険料を天引きする必要はなくなります。
後期高齢者医療制度の保険料は、原則として従業員の年金から天引き(特別徴収)されるか、または個人で納付(普通徴収)するため、企業の給与計算業務からは切り離されることになります。
75歳になる従業員の被扶養者は健康保険の切り替え手続きが必要
従業員本人が75歳になり後期高齢者医療制度へ移行すると、その従業員に扶養されていた家族も、会社の健康保険の被扶養者資格を同時に喪失します。
これにより、被扶養者は自身で何らかの公的医療保険に加入し直さなければ、無保険状態になってしまいます。
企業担当者は、対象となる従業員だけでなく、その被扶養者にも保険の切り替えが必要になることを事前に伝え、手続きを促すことが重要です。
被扶養者は国民健康保険への加入手続きを進める
従業員の健康保険から外れた被扶養者が選択する最も一般的な方法は、国民健康保険への加入です。
国民健康保険は、他の公的医療保険に加入していない全ての国民が対象となる制度であり、お住まいの市区町村が運営しています。
加入手続きは、会社の健康保険の資格を喪失した日から14日以内に、市区町村の役所の担当窓口で行う必要があります。
手続きには、資格喪失を証明する書類(健康保険資格喪失証明書など)や本人確認書類、マイナンバーカードなどが必要となるため、事前に自治体のホームページなどで確認しておくとスムーズです。
家族の勤務先の健康保険に入る選択肢も検討する
被扶養者の選択肢は国民健康保険だけではありません。
もし被扶養者の子や兄弟姉妹など、生計を同一にする他の家族が会社の健康保険に加入している場合、その家族の被扶養者として加入できる可能性があります。
この場合、被扶養者として認定されるためには、年収が130万円未満であることなど、健康保険組合が定める収入要件等を満たす必要があります。
要件を満たせば、自身で保険料を負担する必要がなくなるため、国民健康保険料との比較で検討する価値があります。
また、家族の扶養に入ることで、その家族は年末調整や確定申告で配偶者控除や扶養控除を受けられる場合があります。

社労士 小栗の
アドバイス
最も注意すべきは、75歳到達によって被扶養者が自動的に無保険状態になることです。従業員への説明は、資格喪失の少なくとも1ヶ月前に行い、被扶養者に対し、「国民健康保険への加入手続きが必要であること」、**「手続きをしないと医療費が全額自己負担になること」を強く伝えてください。また、会社は手続きのために必要な「健康保険資格喪失証明書」**を速やかに発行する準備をしておくべきです。
企業担当者が知っておきたい75歳到達時の社会保険手続きの注意点
従業員が75歳に到達した際の社会保険手続きは、他の年齢での手続きとは異なる点があり、正確な知識が求められます。
特に、介護保険料の徴収が始まる40歳や65歳到達時の手続きと混同しないよう注意が必要です。
従業員本人だけでなく、その家族の生活にも関わる重要な手続きであるため、担当者は変更点を正しく理解し、計画的に対応を進めることが求められます。
資格を失う誕生日を正確に把握して手続きする
健康保険の資格を失う日は75歳の誕生日当日です。
この日付を基点として、企業は5日以内に資格喪失届を提出しなければなりません。
手続きが遅れると、本来は徴収不要な保険料を誤って天引きしてしまうなどのトラブルにつながる可能性があります。
従業員の生年月日を正確に管理し、対象者がいつ75歳になるのかを事前にリストアップしておくなど、計画的な準備が不可欠です。
特に月末が誕生日の従業員の場合は、給与計算の締めに間に合うよう、より一層の注意を払う必要があります。
対象従業員とその被扶養者へ事前に変更点を説明しておく
従業員が75歳を迎えるにあたり、企業は本人とその被扶養者に対して、事前に丁寧な説明を行うことが重要です。
説明すべき内容は、健康保険の資格が後期高齢者医療制度に切り替わること、給与からの健康保険料の徴収がなくなること、そして最も重要な点として、被扶養者は別途、国民健康保険などへの加入手続きが必要になることです。
これらの情報を事前に伝えることで、従業員やその家族は安心して必要な準備を進められます。
手続きを怠ると被扶養者が無保険状態になるリスクがあるため、その点を明確に伝え、円滑な移行をサポートします。

社労士 小栗の
アドバイス
健康保険は75歳で必ず資格喪失しますが、厚生年金保険は70歳で資格を喪失するため、70歳を過ぎても働く従業員については、既に厚生年金保険料の天引きは行われていません。ただし、70歳未満の従業員が75歳になる場合は、健康保険の資格喪失手続きのみを行い、厚生年金保険の被保険者資格は75歳以降も継続して加入が可能です。この違いを理解し、正しい手続きを行ってください。
まとめ
従業員が75歳に達すると、健康保険は後期高齢者医療制度へ自動的に切り替わります。
これに伴い、企業は健康保険の資格喪失手続きを行い、給与計算において健康保険料の天引きを停止する必要があります。
また、最も注意すべき点は、75歳になる従業員の被扶養者も健康保険の資格を失うため、国民健康保険への加入など、自身で新たな医療保険への切り替え手続きを行わなければならないことです。
企業担当者は、資格喪失日となる誕生日を正確に把握し、対象従業員と被扶養者へ事前に変更点を説明することで、手続きを円滑に進めることができます。