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コラム

給与計算 15分単位は違法?正しい計算方法と注意点を解説

2025.09.29

給与計算において、慣習的に15分単位で労働時間を計算している企業は少なくありません。
しかし、この方法は労働基準法に違反する可能性があり、違法と判断されるリスクをはらんでいます。
労働時間の計算は原則として1分単位で行う必要があり、誤った計算方法を続けると未払い賃金の発生や労働基準監督署からの是正勧告につながる恐れがあります。
本記事では、労働時間の正しい計算方法と例外的に認められる端数処理、そして適切な勤怠管理を行うための具体的な手法を解説します。

これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。

現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。

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給与計算を15分単位で行うことは労働基準法違反

労働時間を15分や30分といった単位で区切り、それに満たない時間を切り捨てて給与計算を行うことは、原則として労働基準法違反です。
労働基準法第24条では「賃金全額払いの原則」が定められており、労働者が働いた分の対価は全額支払われなければなりません。
1分でも労働したのであれば、その分の賃金を支払う義務が企業にはあります。
そのため、たとえ数分の労働時間であっても、企業の判断で一方的に切り捨てる行為は違法と見なされます。

労働時間は1分単位で計算するのが大原則

労働基準法では、労働時間は実際に労働した時間に基づいて1分単位で管理・計算することが大原則とされています。
労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことを指し、着替えの時間や朝礼、後片付けの時間なども含まれる場合があります。
例えば、9時始業で8時55分から業務を開始した場合や、18時終業で18時10分まで残業した場合、その5分や10分も労働時間として扱わなければなりません。
これを15分単位で切り捨ててしまうと、実際に働いた時間に対する賃金が支払われないことになり、賃金未払い状態が発生します。

15分未満の労働時間を切り捨てる「打刻まるめ」は認められない

タイムカードの打刻時間を15分単位や30分単位で切り上げ・切り捨て処理をすることは「打刻まるめ」と呼ばれ、原則として認められていません。
例えば、始業時刻が9時の会社で8時46分に出勤打刻した記録を9時00分として扱ったり、終業時刻18時の会社で18時14分に退勤打刻した記録を18時00分として処理したりするケースが該当します。
このような処理は、労働者が実際に労働した時間分の賃金を支払わないことになり、労働基準法第24条の「賃金全額払いの原則」に反するため違法です。
労働時間は実労働時間に基づいて1分単位で正確に把握する必要があります。

例外的に認められる給与計算での端数処理とは

労働時間の計算は1分単位が原則ですが、給与計算事務の煩雑さを軽減する目的で、例外的に端数処理が認められるケースがあります。
これは、厚生労働省の通達によって示されているもので、特定の条件下でのみ適用されます。
しかし、これは日々の労働時間を自由に切り捨てて良いという意味ではなく、あくまで1ヶ月の総労働時間を集計した後の処理などが対象です。
この例外的な計算方法を正しく理解し、原則と混同しないよう注意して運用することが求められます。

1ヶ月の「合計労働時間」における30分未満の端数処理

例外として認められている端数処理の一つに、1ヶ月の時間外労働、休日労働、深夜労働の「合計時間」に対する処理があります。
具体的には、1ヶ月におけるそれぞれの総労働時間を通算した際に生じた端数について、30分未満であれば切り捨て、30分以上であれば1時間に切り上げることが可能です。
この計算方法は、日々の労働時間を切り捨てるのではなく、あくまで月単位で集計した後の事務的な処理であり、常に労働者にとって不利になるわけではないため認められています。
この端数処理を適用する場合、就業規則への明記が必要です。

1時間あたりの「賃金額」における円未満の端数処理

賃金額の計算方法においても、特定の端数処理が認められています。
まず、1時間あたりの賃金や割増賃金を計算する際に円未満の端数が生じた場合、50銭未満を切り捨て、50銭以上を1円に切り上げる処理が可能です。
また、1ヶ月の賃金支払額において100円未満の端数が生じた場合、その端数を翌月の給与に繰り越して支払うことができます。
さらに、労使協定を締結していれば、1ヶ月の賃金支払額の1,000円未満の端数を四捨五入して支払うことも認められています。
これらは賃金計算を簡略化するための措置です。

15分単位の給与計算を続けた場合に起こりうる3つのリスク

労働時間を15分単位で切り捨てるなど、不適切な給与計算を継続することは、企業にとって法的なリスクだけでなく、経営上の重大な問題を引き起こす可能性があります。
未払い賃金が発生するというだけでなく、行政指導や訴訟、さらには企業の評判低下といった多岐にわたるリスクを内包しています。
これらのリスクを認識せず、慣習的な運用を続けることは極めて危険であり、コンプライアンス遵守の観点からも早急な見直しが求められます。
このような運用は違法行為にあたります。

労働基準監督署から是正勧告を受ける可能性がある

労働時間を15分単位で切り捨てるなどの違法な運用を行っていると、従業員からの申告や定期的な調査(臨検監督)により、労働基準監督署の立ち入り調査を受ける可能性があります。
調査の結果、労働基準法違反が認められた場合、是正勧告書が交付されます。
是正勧告は行政指導であり、法的な強制力はありませんが、これを無視して改善しない場合、悪質なケースと判断されると書類送検され、労働基準法第120条に基づき30万円以下の罰金が科される恐れがあります。
企業の労務管理体制そのものが問われる事態となります。

従業員から未払い賃金を請求される訴訟リスク

15分単位の切り捨てによって生じた労働時間分の賃金は、法律上「未払い賃金」となります。
従業員(退職者を含む)は、この未払い賃金を企業に請求する権利を持っています。
賃金請求権の時効は現在3年であり、過去に遡って多額の支払いを求められる可能性があります。
交渉が決裂すれば民事訴訟に発展し、裁判所から未払い賃金の支払いを命じられます。
さらに、悪質と判断された場合には、未払い賃金と同額の「付加金」の支払いを命じられることもあり、企業にとって大きな金銭的負担となる違法行為です。

社労士 小栗の
アドバイス

未払い残業代の請求は、現職の従業員よりも退職した従業員から行われるケースが圧倒的に多いです。退職時に会社の処理方法に不満を抱いたり、次の転職先で正確な勤怠管理を知ったりすることで、過去の未払い賃金を請求する動きにつながります。企業としては、従業員が在籍しているうちにこそ、正しい勤怠管理に切り替える必要があります。**「時効3年」**は過去に遡って請求されるリスクを意味するため、速やかに違法な運用を是正し、過去の未払い分についても自主的に計算し、支払うための準備を進めることが最良の対応策です。

コンプライアンス違反による社会的信用の失墜

給与計算に関する違法な運用が明らかになると、コンプライアンス意識が低い企業、いわゆる「ブラック企業」というネガティブな評判が広がるリスクがあります。
このような評判は、企業の社会的信用を大きく損ない、ブランドイメージの低下を招きます。
結果として、顧客や取引先からの信頼を失ったり、金融機関からの融資に影響が出たりする可能性があります。
また、採用活動においても応募者が集まりにくくなるほか、既存の優秀な従業員の離職にもつながり、企業の持続的な成長を阻害する大きな要因となり得ます。

【ケース別】間違いやすい勤怠時間の計算方法

日々の勤怠管理では、残業や遅刻、早退など、給与計算において注意が必要な場面がいくつか存在します。
これらの状況で労働時間の計算方法を誤ると、意図せず賃金未払いが発生してしまう可能性があります。
労働基準法の原則を正しく理解し、それぞれのケースに応じた適切な処理を行うことが、トラブルを未然に防ぐ上で重要です。
ここでは、間違いやすいケースを取り上げ、法令に則った正しい計算方法について確認します。

遅刻や早退をした時間の給与控除

従業員が遅刻や早退をした場合、労働を提供しなかった時間分の賃金を差し引くこと自体は、「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づき認められています。
しかし、その控除額を計算する際には注意が必要です。
例えば、10分遅刻した従業員に対し、15分や30分といった単位で切り上げて給与を控除する処理は違法となります。
控除できるのは、あくまで実際に労働しなかった10分間に対する賃金のみです。
この場合も1分単位での正確な計算方法が求められ、実労働時間以上の賃金を控除することは、労働基準法第24条に違反します。

残業時間(時間外労働)の正しい集計方法

残業時間の計算も、日々の実労働時間に基づいて1分単位で行う必要があります。
1日の労働時間を集計する際に、15分未満や30分未満の残業時間を切り捨てることは認められません。
例えば、定時が18時00分で、従業員が18時13分まで業務を行った場合、企業はその13分間の残業に対して割増賃金を支払う義務があります。
例外的に認められている30分単位の端数処理は、あくまで1ヶ月の残業時間を全て合計した後の最終的な処理であり、日々の残業時間の切り捨てを許可するものではない点を混同しないように注意が必要です。

1分単位で正確な給与計算を実現する具体的な方法

労働時間を1分単位で正確に把握し、適正な給与計算を行うためには、手作業に頼った管理方法からの脱却が効果的です。
特に、自己申告制や紙のタイムカードは、記入漏れや計算ミス、不正のリスクが伴います。
こうした課題を解決し、コンプライアンスを遵守した労務管理を実現する手段として、Excelの活用や勤怠管理システムの導入が挙げられます。
企業の規模や状況に応じて適切な方法を選択し、効率的で正確な勤怠管理体制を構築することが求められます。

Excelのテンプレートを使って勤怠を管理する

多くの企業に導入されている表計算ソフトのExcel(エクセル)は、勤怠管理に活用できるツールの一つです。
関数やマクロを組んで自社専用の勤怠管理表を作成したり、インターネット上で配布されているテンプレートを利用したりすることで、比較的低コストで勤怠管理を始められます。
しかし、Excelによる管理は、打刻データが自己申告になりがちで客観性に欠ける点や、従業員による手入力が基本となるため、入力ミスや数式の誤り、意図的なデータ改ざんといったリスクが残ります。
また、法改正があった際には手動で計算式を修正する必要があり、管理が煩雑になる側面も持ち合わせています。

勤怠管理システムを導入して計算を自動化する

勤怠管理システムを導入することで、1分単位の正確な勤怠管理と給与計算の自動化を実現できます。
ICカード、生体認証、GPS機能付きのスマートフォンアプリなど、多様な打刻方法により客観的な労働時間を記録し、リアルタイムで自動集計します。
時間外労働や深夜労働、休日労働なども法令に基づいて自動で計算されるため、手作業によるミスや不正のリスクを大幅に削減できます。
また、法改正にもシステム側がアップデートで対応するため、常に適法な管理体制を維持することが可能です。
給与計算ソフトと連携させることで、勤怠データの取り込みから給与明細の発行まで一連の業務を効率化する計算方法も構築できます。

社労士 小栗の
アドバイス

勤怠管理システムを導入する際、単に「1分単位で計算できること」だけでなく、自社の「労働時間」の定義をシステムに反映できるかが重要です。例えば、休憩時間の運用方法、特定の部署で適用される変形労働時間制への対応などです。これらの細かいルール設定ができないシステムでは、導入後に結局手作業での修正が発生し、未払い賃金のリスクも残ります。まずは自社の就業規則と実態を照らし合わせ、何が労働時間にあたるのかを明確にし、それを正確に記録・集計できるシステムを選定しましょう。

まとめ

給与計算において、慣習的に労働時間を15分単位などで切り捨てる行為は、労働基準法に違反する違法な運用です。
労働時間は、原則として1分単位で正確に計算し、労働した全ての時間に対して賃金を支払う必要があります。
例外的に、1ヶ月の合計残業時間に対する端数処理は認められていますが、その適用条件は限定的です。
誤った計算方法を続けることは、未払い賃金の請求や是正勧告といった法的なリスクを招きます。
勤怠管理システムの導入などにより、1分単位での正確な勤怠管理体制を構築し、コンプライアンスを遵守した健全な企業運営を行うべきです。

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