050-3529-5691 平日9:00〜17:00 お問い合わせ

コラム

出勤停止の給与計算はどうする?正しい計算方法と注意点を解説

2025.09.26

従業員に出勤停止処分を科した場合、その期間中の給与計算をどのように行うべきか迷う担当者は少なくありません。
出勤停止期間中の給与は原則として無給となりますが、社会保険料の控除は必要であり、正しい知識に基づいた対応が求められます。
本記事では、出勤停止期間中における給与の具体的な計算方法や、不当な処分と判断されないための法的な注意点について詳しく解説します。

これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。

現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。

社会保険労務士 小栗多喜子のプロフィール紹介はこちら
https://www.tokai-sr.jp/staff/oguri

取材・寄稿のご相談はこちらから

そもそも出勤停止とは?懲戒処分の一種

出勤停止とは、企業秩序を乱した従業員に対し、戒めとして一定期間の就労を禁止する懲戒処分の一つです。
従業員が持つ労働契約上の労務提供義務を停止させるもので、期間は就業規則で定められますが、一般的には7日から10日程度が上限の目安とされています。
この懲戒処分としての出勤停止は、従業員の責めに帰すべき事由に基づいて科される制裁です。
一方で、インフルエンザなどの感染症拡大防止を目的として会社が従業員に出勤しないよう命じるケースもありますが、これは懲戒処分とは性質が全く異なります。
本記事で扱うのは、前者の懲戒処分としての出勤停止です。

出勤停止期間中の給与支払いは原則不要

労働契約において、労働者が労働力を提供しない場合、使用者はその対価である賃金を支払う義務を負わないという「ノーワーク・ノーペイの原則」が存在します。
懲戒処分としての出勤停止は、従業員側の都合(責めに帰すべき事由)によって労務の提供がなされない状態です。
そのため、この原則が適用され、会社は出勤停止期間中の給与を支払う義務を負いません。
つまり、該当期間は無給となるのが基本です。
ただし、会社の就業規則や労働協約に、出勤停止期間中も給与を支払うといった特別な定めがある場合は、その規定が優先されることになります。

社労士 小栗の
アドバイス

出勤停止期間を無給とするためには、就業規則に「出勤停止期間中は無給とする」旨の規定が明確に存在することが大前提です。この規定がない場合、懲戒処分であっても賃金全額払いの原則に反するリスクが生じます。また、無給と定めている場合でも、基本給だけでなく、どの手当が欠勤控除の対象となるかも、給与規程で具体的に明記されているかを確認し、それに従って日割り計算を行う必要があります。

出勤停止期間中の給与計算で控除すべき項目

従業員が出勤停止となった場合、給与計算では「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づき、出勤しなかった日数分の給与を欠勤控除として差し引きます。
この計算方法は、就業規則に定められた規定に従って行う必要があります。
控除の対象となるのは基本給や各種手当ですが、手当の種類によっては控除対象外となる場合もあるため注意が必要です。
また、給与の支給がなくても社会保険の被保険者資格は継続するため、社会保険料や住民税は通常通り発生し、給与から控除しなくてはなりません。

日割り計算で控除する給与の内訳

出勤停止期間中の給与を欠勤控除として差し引く際、対象となるのは基本給や役職手当、資格手当といった、労働の対価として支払われる固定的賃金です。
一方で、通勤手当や住宅手当などの実費弁償的・福利厚生的な手当については、就業規則の定めに従って控除の要否を判断します。
具体的な計算方法としては、月給をその月の所定労働日数で割り、1日あたりの給与額を算出した後、出勤停止の日数分を乗じて控除額を決定するのが一般的です。
ただし、就業規則に「月給額÷その月の歴日数×出勤停止日数」のように計算方法が具体的に定められている場合は、その規定に従って処理を進めることが重要です。

社会保険料や住民税は給与から控除が必要

出勤停止期間中であっても、従業員としての身分は継続しているため、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料、雇用保険料といった社会保険料は通常通り発生します。
これらは毎月の給与から控除しなければなりません。
同様に、前年の所得に応じて課税される住民税も、特別徴収の対象者であれば天引きが必要です。
欠勤控除によって給与支給額がこれらの控除額の合計を下回るケースも考えられます。
その場合、不足分を会社が一時的に立て替え、翌月の給与から相殺するか、従業員本人から直接支払ってもらうかなど、徴収方法を事前に定めておくことが望ましいです。

出勤停止期間中の賞与(ボーナス)や退職金の扱い

賞与(ボーナス)は、算定対象期間内の勤務成績や会社への貢献度に応じて支給額が決定されることが一般的です。
そのため、出勤停止期間を欠勤として扱い、その日数に応じて賞与を減額することは基本的に問題ありません。
具体的な減額の計算方法は、賞与規定などの社内ルールに基づいて行います。
また、退職金についても、就業規則に懲戒処分を受けた場合の減額・不支給規定があれば、それに従って対応できます。
ただし、退職金には功労報奨的な性格があるため、その全額を不支給とするには、懲戒解雇に相当するような極めて重大な非違行為があった場合に限られるなど、処分の妥当性について慎重な判断が求められます。

出勤停止と混同しやすい休業との違い

「出勤停止」という言葉と似たものに「自宅待機」「自宅謹慎」「休業」がありますが、これらは給与支払いの有無や法的性質が異なります。
これらの違いを正しく理解せずに対応すると、労働基準法に抵触するなどのトラブルに発展する可能性があります。
例えば、会社の都合で従業員を休ませる「休業」の場合、会社は休業手当を支払う義務を負います。
懲戒処分である出勤停止とは全く異なるため、それぞれのケースを正確に区別して対応することが重要です。

業務命令による「自宅待機」は給与支払いが必要

自宅待機は、従業員に不正行為の疑いが生じた場合など、事実関係の調査や懲戒処分の検討のために、会社が業務命令として一時的に自宅での待機を命じる措置です。
これは懲戒処分そのものではなく、会社の業務上の都合による措置と解釈されます。
そのため、従業員は会社の指揮命令下にある状態と見なされ、原則として賃金の全額を支払う必要があります。
労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業」には直接該当しませんが、賃金支払いが原則です。
ただし、就業規則に調査中の自宅待機命令期間中は平均賃金の6割以上の休業手当を支払う旨の定めがある場合は、その支払いで足りるとされています。

懲戒処分としての「自宅謹慎」は給与支払い不要

自宅謹慎は、従業員が企業秩序に違反した場合に科される懲戒処分の一種である出勤停止と同義で用いられることがあります。これは、従業員を一定期間就労させず、自宅で反省を促すことを目的とするものです。懲戒処分として自宅謹慎(出勤停止)を有効に成立させるためには、あらかじめ就業規則にその旨が明確に規定されていることが前提となります。

自宅謹慎には、「懲戒処分としての出勤停止」と「業務命令としての自宅待機」の2種類があり、それぞれ給与の扱いが異なります。

懲戒処分としての出勤停止の場合
従業員の責めに帰すべき事由による労務提供の停止であるため、「ノーワーク・ノーペイの原則」が適用され、原則として自宅謹慎の期間中は給与を支払う必要はありません。ただし、懲戒処分としての出勤停止期間を無給とする場合は、その旨が就業規則に明記されている必要があります。

業務命令としての自宅待機の場合
調査のためや、従業員を出社させることが不適当と会社が判断した場合など、業務上の必要性に基づいて自宅待機を命じる場合は、原則として給与の支払いが必要です。これは、自宅待機が懲戒処分ではなく、会社都合による労務提供の拒否とみなされるためです。ただし、就業規則に懲戒処分の調査のために無給で自宅待機命令を命じることができる根拠規定がある場合は、無給とすることも可能です。

このように、自宅謹慎の性質によって給与の支払いの要否が異なるため、混同しないよう注意が必要です。

会社都合の「休業」は休業手当の支払いが必要

会社の経営不振や機械の故障、原材料の不足といった会社側の事情によって、事業の全部または一部の停止を余儀なくされ、従業員を休ませることを「休業」と呼びます。
これは従業員に何ら責任がないにもかかわらず、労務を提供できなくなった状態です。
そのため、労働者の生活を保障する観点から、労働基準法第26条では、会社に対して平均賃金の60%以上の休業手当を支払うことを義務付けています。
従業員の非違行為に対する制裁である懲戒処分の出勤停止とは、その性質が全く異なり、手当の支払い義務が発生する点が大きな違いです。

出勤停止期間中に有給休暇の取得は認められる?

年次有給休暇は、労働基準法で保障された労働者の権利であり、本来労働義務のある日について、その義務を免除してもらうために取得するものです。
一方、出勤停止期間は、懲戒処分によって労働義務そのものが免除されている日にあたります。
したがって、そもそも労働義務のない日に年次有給休暇を取得することはできません。
会社は、従業員から出勤停止期間中の有給休暇取得の申請があったとしても、これを拒否することが可能です。
もし取得を認めてしまうと、懲戒処分による制裁の意味合いが薄れてしまうことにもつながります。

不当な処分にならないための出勤停止の正しい手順

出勤停止という懲戒処分を有効に成立させるためには、労働契約法や労働基準法が定めるルールに則り、適正な手続きを踏むことが不可欠です。
万が一、手続きに不備があると、従業員に非があったとしても、処分そのものが無効と判断されるリスクが生じます。
具体的には、就業規則の確認から始まり、客観的な証拠の収集、本人への弁明機会の付与、そして処分通知書の交付といった一連のプロセスを、一つひとつ慎重に進めていく必要があります。

就業規則の懲戒規定を確認する

従業員に対して懲戒処分を科す大前提として、その根拠となる規定が就業規則に明記されていなければなりません。
具体的には、「どのような行為が処分の対象となるか」という懲戒事由と、「その行為に対してどのような処分が科されるか」という懲戒の種類が定められていることが必要です。
出勤停止処分を検討する際は、まず自社の就業規則において「出勤停止」が懲戒処分の一つとして規定されているか、そして対象従業員の行為が懲戒事由に該当するかを必ず確認してください。
これらの根拠規定が存在しないまま処分を下した場合、その処分は無効となります。

事実関係を正確に調査し証拠を収集する

懲戒処分の判断は、憶測や伝聞ではなく、客観的な事実に基ついて行わなければなりません。
そのため、対象となる行為について徹底的な調査を行い、客観的な証拠を収集することが極めて重要です。
具体的には、関係者へのヒアリングを実施し、その内容を書面に記録するほか、関連するメールや日報、監視カメラの映像などの物的な証拠を確保します。
これらの証拠は、従業員との間で紛争が生じた際に、会社の処分の正当性を立証するための重要な資料となります。
偏りのない公平な視点で、慎重に事実確認を進めることが求められます。

対象従業員に弁明の機会を与える

懲戒処分を行うにあたっては、対象となる従業員に対し、処分の理由となる事実を伝え、それに対する意見や反論を述べる機会(弁明の機会)を与えることが望ましいとされています。法令上、弁明の機会の付与を直接義務付ける規定はありませんが、会社の一方的な判断で不利益な処分が下されることを防ぎ、手続きの公正性を担保するために重要なプロセスです。特に、就業規則に弁明の機会の付与が定められている場合は、これを実施しないと処分が無効となるリスクがあります。

弁明の機会は、面談形式または書面の提出によって設けるのが一般的であり、その日時や内容、従業員の弁明の要旨などを記録として残しておくことが肝心です。この手続きを怠ると、後の裁判などで処分の有効性が争われた際に、手続き上の不備を指摘され、処分が無効と判断されるリスクが高まります。

社労士 小栗の
アドバイス

懲戒処分ではなく、事実調査のための「業務命令」として自宅待機を命じる場合、原則として給与の全額を支払う必要があります。無給とするためには、就業規則に「調査が必要な場合、無給での自宅待機を命じる」といった具体的な根拠規定が必要です。もし規定がないにもかかわらず無給とした場合、従業員から「休業手当(平均賃金の60%以上)」または「賃金の全額」を請求され、トラブルに発展するリスクがあります。

懲戒処分を決定し「出勤停止処分通知書」を交付する

事実調査の結果と従業員からの弁明内容を総合的に考慮し、懲戒処分の内容を最終的に決定します。
その際、問題となった行為の性質や態様、会社に与えた影響などを踏まえ、処分の重さが社会通念上、妥当な範囲に収まるよう慎重に判断することが必要です。
処分内容が確定したら、「出勤停止処分通知書」といった書面を作成し、対象従業員に交付します。
この通知書には、処分の根拠となる就業規則の条文、処分の原因となった具体的な事実、出勤停止の期間、そして処分年月日を明確に記載します。
口頭だけでなく書面で通知することにより、処分内容を正確に伝え、後のトラブルを防止します。

出勤停止処分を科す際の注意点

出勤停止という懲戒処分は、適正な手順を踏んで行うだけでなく、その内容自体も法的に妥当でなければなりません。
労働契約法第15条には、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒処分は、権利の濫用として無効になると定められています。
処分が後に無効と判断される事態を避けるため、処分の重さの妥当性や、法的な基本原則である「二重処罰の禁止」や「平等取扱いの原則」などを遵守することが極めて重要です。

処分の重さが客観的に見て妥当であること

懲戒処分が有効と認められるためには、対象となる従業員の行為の性質や態様、その他の事情に照らして、社会通念上相当なものでなければなりません。
これは「懲戒権の濫用法理」と呼ばれ、労働契約法第15条に明記されています。
例えば、一度の遅刻といった比較的軽微な非違行為に対して、長期間の出勤停止を科すことは、行為と処分の均衡を欠き、重すぎる処分として無効と判断される可能性が高いです。
処分の重さを決定する際は、行為の悪質性、会社に与えた損害の程度、本人の反省の態度、過去の懲戒歴などを総合的に考慮し、客観的に見て妥当な範囲に収める必要があります。

一つの違反行為に対して二重に処分しない

一つの違反行為に対して、懲戒処分を二度以上科すことは「一事不再理(二重処罰の禁止)」の原則に反し、許されません。
例えば、ある従業員が就業規則違反を犯した際に、まず「けん責」処分を行った後、同じ違反行為を理由として、さらに「出勤停止」処分を追加で科すことはできません。
ただし、これはあくまで同一の事案に対するものであり、けん責処分を受けた従業員が、その後また別の違反行為を行った場合に、その新たな行為に対して懲戒処分を科すことは問題ありません。
この原則は、労働者に過大な不利益が及ぶことを防ぐための重要なルールです。

過去の処分事例との公平性を保つ

懲戒処分を決定する際には、社内における過去の同種事案での処分例と比較し、公平性を保つことが求められます。
これは「平等取扱いの原則」とも呼ばれ、同じ程度の問題行為に対して、特定の従業員にだけ不合理に重い、あるいは軽い処分を科すことは、処分の妥当性を欠くと判断される可能性があります。
もちろん、個別の事情、例えば行為の悪質性や常習性、反省の度合いなどを考慮して処分の内容に差を設けることは許容されます。
しかし、その場合でも客観的かつ合理的な理由が説明できなければなりません。
社内での公平性を確保するためにも、過去の懲戒処分の事例を記録し、判断基準を明確にしておくことが望ましいです。

まとめ

従業員に対する出勤停止処分では、給与計算においてその期間を無給として扱い、欠勤控除を行うのが原則です。
ただし、給与支給がなくても社会保険料や住民税は控除する必要があるため、正しい計算方法を理解しておくことが求められます。
また、出勤停止は懲戒処分であるため、単に給与計算の問題にとどまりません。
処分を有効に成立させるには、就業規則上の根拠を明確にし、事実調査や弁明の機会の付与といった適正な手続きを踏むことが不可欠です。
さらに、処分の重さが客観的に見て妥当であるか、過去の事例との公平性が保たれているかといった点にも十分に配慮し、慎重に対応することが労務管理上重要となります。

Contact

お問い合わせ・ご相談

給与計算に関することならお気軽にご相談ください。
無料相談はオンラインでも対面でも承っております。