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コラム

給与計算における配偶者の扶養。所得税は扶養人数でどう変わる?

2025.10.17

毎月の給与計算において、所得税の金額は従業員の扶養人数によって変動します。
例えば、妻を扶養に入れることで納税者本人の扶養人数が1人増えると、所得控除が適用され、結果として毎月の源泉徴収税額が軽減されます。
この仕組みを正しく理解することは、給与計算担当者にとっても、従業員にとっても非常に重要です。
本記事では、配偶者の扶養が所得税に与える影響や、具体的な年収の壁、必要な手続きについて詳しく解説します。

これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。

現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。

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まずは基本から!配偶者を扶養に入れると所得税が安くなる仕組み

所得税は個人の1年間の所得に対して課される税金ですが、その人の状況に応じて税負担を調整するための「所得控除」という制度があります。
配偶者や子供などの扶養家族がいる場合、一定の要件を満たすことで扶養控除や配偶者控除が適用され、課税対象となる所得金額が減少します。
この結果、納めるべき所得税の額が安くなるのです。
給与計算では、この扶養家族の人数を基に毎月の源泉徴収税額を算出するため、扶養状況を正確に把握することが不可欠です。

給与計算の前に確認!「税法上の扶養」と「社会保険上の扶養」の違い

一般的に「扶養」という言葉は、税金に関する「税法上の扶養」と、健康保険や年金に関する「社会保険上の扶養」という2つの意味で使われます。
税法上の扶養は、本人の所得税や住民税の負担を軽減するための制度です。
一方、社会保険上の扶養は、被扶養者となった配偶者などが自身で健康保険料や国民年金保険料を支払う必要がなくなる制度を指します。
両者は目的が異なるため、扶養の対象となるための年収要件などの基準も異なります。
給与計算で直接関わるのは主に税法上の扶養ですが、この違いを理解しておくことが重要です。

配偶者を扶養に入れるための2つの控除制度

納税者が配偶者を扶養に入れることで受けられる所得控除には、「配偶者控除」と「配偶者特別控除」の2種類が存在します。
どちらの控除が適用されるかは、主に配偶者の年間の合計所得金額によって決まります。
配偶者の収入が一定額以下であれば配偶者控除が、それを超えても一定の範囲内であれば配偶者特別控除が適用される可能性があります。
これらの制度により、納税者本人の課税所得が減少し、税負担が軽減される仕組みになっています。

配偶者の年収103万円以下で受けられる「配偶者控除」の適用条件

配偶者控除を受けるためには、その年の12月31日時点で複数の要件をすべて満たしている必要があります。
まず、民法上の配偶者であり、納税者本人と生計を共にしていることが前提です。
次に、配偶者の年間の合計所得金額が48万円以下、給与収入のみの場合は103万円以下でなければなりません。
さらに、配偶者が青色申告者の事業専従者として給与の支払いを受けていないことや、白色申告者の事業専従者でないことも条件となります。
最後に、控除を受ける納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下であることも要件の一つです。

配偶者の年収103万円超201.6万円未満で受けられる「配偶者特別控除」の適用条件

配偶者の年収が103万円を超え、配偶者控除の対象外となった場合でも、配偶者特別控除を受けられる可能性があります。
この控除の適用条件は、納税者本人と生計を一にしている民法上の配偶者であることに加え、配偶者の年間の合計所得金額が48万円超133万円以下(給与収入のみの場合は103万円超201.6万円未満)であることが必要です。
また、納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下であることや、配偶者が他の人の扶養親族になっていないことなどの要件も満たさなければなりません。
控除額は、納税者本人と配偶者の所得金額に応じて段階的に変動します。

社労士 小栗の
アドバイス

記事では主に所得税に関する「103万円の壁」などを解説していますが、従業員が扶養内で働く配偶者を持つ場合、社会保険上の「130万円の壁」や「106万円の壁」が、世帯の手取り額に大きな影響を与えます。配偶者の年収が130万円(または企業の規模や労働時間によっては106万円)を超えると、配偶者自身が健康保険と厚生年金保険に加入する必要が生じ、保険料負担により一時的に世帯の手取りが大きく減少します。給与計算担当者は、税制面だけでなく、社会保険上の扶養の境界線についても従業員に情報提供し、配偶者の働き方に関する相談に応じられるように準備しておくことが望ましいです。

【配偶者の年収の壁】控除額に影響する3つのボーダーライン

配偶者の働き方を考える上でよく耳にする「年収の壁」は、税金や社会保険の負担額が変化する収入のボーダーラインを指します。
特に所得税においては、103万円、150万円、201.6万円の3つの壁が重要です。
これらの壁を超えると、配偶者自身に所得税が発生したり、納税者本人が受けられる配偶者控除や配偶者特別控除の金額が変動したりします。
世帯全体の手取り収入を最大化するためには、これらの年収の壁が持つ意味を正しく理解しておくことが求められます。

103万円の壁:所得税がかかり始めるライン

「103万円の壁」は、配偶者自身の所得税に直接関係するボーダーラインです。
給与収入には、最低55万円の給与所得控除と、全ての納税者に適用される48万円の基礎控除があります。
この合計額が103万円であるため、年収が103万円を超えると、超えた部分に対して所得税が課税されることになります。
また、納税者にとっては、配偶者控除の適用が外れ、配偶者特別控除に切り替わる分岐点でもあります。
この壁は、税法上の扶養を考える上で最も基本的な基準として広く知られています。

150万円の壁:配偶者特別控除が満額になる上限

「150万円の壁」は、納税者が受けられる配偶者特別控除の金額に関わる重要なラインです。
配偶者の年収が103万円を超えても、150万円以下であれば、納税者は配偶者特別控除を満額である38万円(納税者の所得が900万円以下の場合)受けることができます。
これは配偶者控除の満額と同額です。
つまり、配偶者の年収が103万円を超えても150万円までであれば、納税者本人の税負担は変わりません。
しかし、年収が150万円を超えると、控除額は配偶者の収入に応じて段階的に減少していきます。

201.6万円の壁:配偶者特別控除を受けられる上限

「201.6万円の壁」は、配偶者特別控除が適用されるかどうかの最終的なボーダーラインです。
配偶者の給与収入が年間で201.6万円(合計所得金額133万円)を超えると、配偶者特別控除の額はゼロになります。
つまり、納税者は配偶者に関する所得控除を一切受けられなくなるということです。
この壁を超えると、納税者本人の課税所得が増加し、所得税の負担が大きくなる可能性があります。
そのため、配偶者の働き方を検討する際には、この収入ラインも意識しておく必要があります。

【月収別】配偶者を扶養した場合の所得税額シミュレーション

配偶者を扶養に入れると、毎月の給与から天引きされる源泉徴収税額が具体的にいくら変わるのでしょうか。
給与計算では、国税庁が公表している「給与所得の源泉徴収税額表」を用いて税額を算出しますが、この表は扶養親族等の数によって参照する列が異なります。
ここでは、月収30万円と40万円のケースで、配偶者の扶養あり・なしの税額を比較し、手取り額にどのような影響があるかを見ていきます。

月収30万円の場合:扶養あり・なしで源泉徴収税額を比較

月収30万円、社会保険料を約45,000円と仮定した場合、社会保険料控除後の給与月額は約255,000円です。
国税庁の「令和6年分源泉徴収税額表」によると、扶養親族が0人の場合の源泉徴収税額は6,020円となります。
一方、配偶者を扶養に入れて扶養親族が1人になると、同じ給与月額でも税額は3,910円に減少します。
このケースでは、配偶者を扶養に入れることで、月々の所得税負担が2,110円軽減される計算になります。

月収40万円の場合:扶養あり・なしで源泉徴収税額を比較

次に、月収(総支給額)40万円、社会保険料を約55,000円と仮定すると、社会保険料控除後の給与月額は約345,000円です。
同じく「令和6年分源泉徴収税額表」を参照すると、扶養親族が0人の場合の源泉徴収税額は9,980円です。
これに対し、配偶者を扶養に入れて扶養親族が1人になると、税額は7,870円まで下がります。
この場合も、扶養に入れることによる所得税の軽減額は月々2,110円となり、年間に換算すると25,320円の差が生じます。

配偶者の扶養状況が変わった場合の給与計算と手続き方法

結婚、配偶者の就職や退職、あるいは収入の変動などによって、扶養の状況は変わることがあります。
従業員の扶養状況に変更が生じた場合、会社側はそれを給与計算に速やかに反映させる必要があります。
そのためには、従業員から適切な書類を提出してもらうことが不可欠です。
ここでは、扶養状況が変更になった際に必要な手続きの流れと、いつから給与に反映されるのかといった実務上のポイントを解説します。

「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を会社へ提出する

配偶者を新たに扶養に入れる、または扶養から外すといった変更があった場合、従業員は「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を勤務先に提出する必要があります。
この書類で、控除対象配偶者や扶養親族の情報を申告します。
所得税の控除対象となるのは、年齢がその年の12月31日時点で16歳以上の扶養親族ですが、16歳未満の扶養親族についても住民税の算定に関わるため記載が必要です。
この申告書は、年の途中で扶養状況に変動があった際にその都度提出し直すことで、毎月の給与計算に正しい情報が反映されます。

社労士 小栗の
アドバイス

所得税の扶養控除は16歳未満の扶養親族には適用されませんが、住民税では16歳未満の扶養親族も非課税限度額の算定に関わってきます(均等割・所得割の非課税限度額に影響)。そのため、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」には、16歳未満の子どもについても正確に記載するよう、従業員に改めて依頼しましょう。所得税の源泉徴収額には影響しなくても、翌年の住民税額に関わるため、提出を怠らないように指導することが、従業員への親切な対応となります。

扶養の変更はいつから給与計算に反映される?

扶養状況の変更がいつから給与計算に反映されるかは会社の事務処理スケジュールによって決まります。
一般的には、従業員から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」が提出され、それを受理した後の最初の給与支払日から変更が適用されます。
例えば、給与計算の締め日よりも前に申告書を提出すれば、その月の給与から扶養人数の変更が反映され、源泉徴収税額が修正されます。
具体的な反映タイミングについては、勤務先の経理や人事の担当者に確認することが確実です。

年の途中の申告漏れは年末調整で修正可能

結婚や配偶者の退職により扶養に入れることになったにもかかわらず、年の途中で会社への申告を忘れてしまった場合でも、年末調整で遡って修正することができます。
年末に勤務先から配布される「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」や「給与所得者の配偶者控除等申告書」に正しい情報を記載して提出すれば、その年の所得税が正しく再計算されます。
その結果、本来受けられるはずだった控除が適用され、1年間の源泉徴収で払い過ぎていた税金があれば還付金として戻ってきます。

まとめ

給与計算における配偶者の扶養は、毎月の源泉徴収税額、ひいては従業員の手取り額に直接影響する重要な項目です。
配偶者控除や配偶者特別控除の適用条件、そして「103万円の壁」に代表される各種年収のボーダーラインを正しく理解しておくことが、適切な税務処理の基本となります。
結婚や配偶者の収入変動などにより扶養状況が変わった際には、従業員は速やかに「扶養控除等申告書」を会社へ提出しなければなりません。
万が一、年の途中での申告が漏れた場合でも年末調整で精算は可能ですが、正確な給与計算のためには、変更が生じた都度、迅速に手続きを行うことが求められます。

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