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コラム

日雇いの給与計算と源泉徴収|税金の仕組みと注意点をわかりやすく解説

2025.10.17

日雇いバイトを雇用する際、日給の支払い方や税金の扱いに迷う担当者は少なくありません。
日雇い労働者への給与も、原則として所得税の源泉徴収が必要です。

この記事では、日雇いの給与計算における源泉徴収の仕組み、特に「丙欄」を用いた計算方法や注意点について詳しく解説します。
正しい知識を身につけ、適切な手続きを行いましょう。

これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。

現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。

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日雇い労働者の給与も源泉徴収は原則必要

日雇い労働者に支払う給与は、税法上「給与所得」に分類されるため、原則として源泉徴収の対象となります。
源泉徴収とは、給与を支払う事業者が、従業員に代わって所得税を国に納付する制度です。
日払いであっても、雇用契約に基づき労働の対価として支払われる金銭は給与所得に該当し、支払い時に所定の税額を天引きしなくてはなりません。

この手続きを怠ると、追徴課税などのペナルティを受ける可能性があるため、雇用形態にかかわらず正しく処理することが求められます。

給与計算の前に確認!「日雇い」の法的な定義とは

一般的に「日雇いバイト」や「日払い」という言葉は同じ意味で使われがちですが、所得税法における「日雇い」は明確に定義されています。
法的には「日々雇い入れられる者」を指し、労働契約が1日単位で完結する雇用形態を意味します。
給与の支払いが日ごとに行われる「日払い」とは必ずしも一致しません。

例えば、契約期間が1週間であっても給与を毎日支払う場合は「日払い」ですが、所得税法上の「日雇い」には該当しない場合があります。
給与計算、特に源泉徴収税額を算出する際には、この法的な定義を正しく理解し、雇用契約の実態に基づいて判断することが重要です。

日雇いの源泉徴収税額を決定する「甲・乙・丙」区分について

日雇い労働者の源泉徴収税額は、国税庁が定める「給与所得の源泉徴収税額表(日額表)」に基づいて計算します。
この税額表には「甲欄」「乙欄」「丙欄」の3つの区分があり、どの区分を適用するかは労働者の状況によって異なります。
「甲欄」は「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している主たる給与の受給者に適用されます。
「乙欄」は同申告書を提出していない、または他の勤務先で提出している者に適用されます。

そして「丙欄」は、日雇い労働者など特定の条件を満たす場合にのみ適用される特殊な区分です。
正しい区分を選択することが、適切な税額計算の第一歩となります。

源泉徴収が不要になるケースとは?丙欄を適用するための条件

日雇い労働者の給与計算において、所得税の源泉徴収が不要になる場合があります。
それは、源泉徴収税額表の「丙欄」を適用し、かつ日給が9,300円未満である場合です。
丙欄を適用するためには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
まず、雇用契約があらかじめ2ヶ月以内と定められていること。

次に、労働者から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出がないこと。
これらの条件を満たす日雇い労働者については、日額表の丙欄を用いて所得税額を算出し、その結果として税額が0円になることがあります。

【区分別】日雇いの所得税額の計算シミュレーション

日雇い労働者の所得税額は、「甲欄」「乙欄」「丙欄」のどの区分を適用するかによって大きく異なります。
同じ日給であっても、労働者の申告書の提出状況や雇用契約の期間によって、源泉徴収すべき税額が変わるため、それぞれのケースを正確に把握しておくことが不可欠です。

ここでは、具体的な日給額を例に挙げ、それぞれの区分ごとに所得税額がどのように計算されるのかをシミュレーションし、その違いを明確にします。

扶養控除等申告書の提出がある場合(甲欄)

労働者から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」が提出されている場合、源泉徴収税額の計算には「給与所得の源泉徴収税額表(日額表)」の甲欄を適用します。
甲欄は、扶養親族等の人数に応じて税額が設定されているため、同じ給与額でも扶養親族がいない場合といる場合では源泉徴収額が異なります。
例えば、日給が10,000円で扶養親族が0人の場合、所定の所得税が課されます。

この申告書は、その労働者にとって主たる給与の支払先である場合にのみ提出されるため、複数の場所で働く労働者の場合はどの勤務先に提出しているかを確認する必要があります。

扶養控除等申告書の提出がない場合(乙欄)

給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の提出がない労働者については、源泉徴収税額表(日額表)の乙欄を適用して所得税を計算します。
これは、他の勤務先で同申告書を提出しており、自社が主たる給与の支払者ではない場合や、単純に提出を忘れているケースなどが該当します。
乙欄は甲欄に比べて控除が考慮されないため、同じ給与額でも源泉徴収される税額は高くなるのが特徴です。

例えば、日給10,000円の場合、乙欄で計算すると甲欄(扶養0人)よりも高い税額が源泉徴収されます。
この区分を適用することで、年末調整や確定申告での納税不足を防ぐ役割があります。

特定の条件を満たした場合(丙欄)

日雇い労働者特有の区分として丙欄があります。
これを適用するには、雇用期間が継続して2ヶ月以内であり、かつ「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出がないという条件を満たす必要があります。

丙欄の最大の特徴は、日給が9,300円未満の場合、源泉徴収すべき所得税額が0円になる点です。
日給が9,300円以上になると、日給から9,300円を差し引いた金額に所定の税率を掛けて税額を算出します。
この丙欄の適用条件を正しく理解し活用することで、日雇い労働者の給与計算業務を効率化し、労働者の手取り額への影響を最小限に抑えることが可能です。

日雇いの給与計算で担当者が押さえておくべき3つの注意点

日雇い労働者の給与計算は、源泉徴収税額の算出だけでなく、他にも注意すべき実務上のポイントがいくつか存在します。
特に、社会保険の加入義務の有無、所得税法で定められた給与明細の発行、そして現金手渡し時の手続きは、トラブルを未然に防ぐために重要です。

これらの労務管理に関する事項を正確に把握し、法令を遵守した適切な対応を行うことで、使用者と労働者の双方にとって健全な雇用関係を維持できます。

社会保険・雇用保険への加入義務はある?

日雇い労働者であっても、特定の条件を満たす場合には社会保険(健康保険・厚生年金保険)や雇用保険への加入義務が発生します。
社会保険については、当初の雇用契約期間が1ヶ月を超える場合や、1ヶ月以内の契約であっても更新されて1ヶ月を超えて雇用される見込みがある場合に加入対象となります。

また、雇用保険は、31日以上の雇用見込みがある場合に加入が必要です。
ただし、日雇労働被保険者制度の対象となる場合など、例外的な取り扱いも存在するため、個々の雇用契約の実態に応じて加入要件を確認し、適切な手続きを行わなければなりません。

給与明細の発行と帳簿の保管は必須

所得税法第231条により、給与を支払う事業者は、雇用形態にかかわらず、支払いを受ける者に対して給与明細(支払明細書)を交付する義務があります。
日雇い労働者に対しても、給与を支払う都度、支給総額、源泉徴収税額などの控除額、そして差引支給額を明記した給与明細を必ず発行しなくてはなりません。

また、労働基準法に基づき、労働者名簿、賃金台帳、出勤簿といった法定三帳簿を作成し、適切に保管する義務も負います。
これらの書類は、労働時間や賃金の支払いを証明する重要な記録となり、労務トラブルを防止する上で不可欠です。

現金で給与を手渡しする際の留意事項

日雇い労働の現場では、給与を現金で手渡しするケースが多く見られます。
その際に最も重要なのは、給与を支払ったという客観的な証拠を残すことです。
具体的には、労働者本人に給与を受け取った旨を記した受領書に署名または捺印をもらう方法が確実です。

これにより、「給与を受け取っていない」といった後のトラブルを効果的に防ぐことができます。
受領印をもらう際には、給与明細も同時に手渡し、支給額や控除額に間違いがないかその場で確認してもらうと、より円滑な手続きとなります。
支払いの記録を明確にしておくことは、企業のコンプライアンス遵守の観点からも極めて重要です。

日雇い労働者にも源泉徴収票の発行は必要か?

源泉徴収票は、給与の支払者(会社)が、その年に支払った給与総額と源泉徴収した所得税額を証明する書類です。
所得税法上、給与の支払者はすべての受給者に対して源泉徴収票を交付する義務があります。
日雇い労働者も例外ではありません。
特に、年の途中で雇用関係が終了した労働者に対しては、退職後1ヶ月以内に交付することが定められています。

労働者が確定申告を行う際や、他の勤務先で年末調整を受ける際に必要となる重要な書類です。
ただし、丙欄適用者で源泉徴収税額が0円の場合など、労働者から請求がなければ交付しない実務慣行もありますが、求められた際には速やかに発行する準備をしておく必要があります。

まとめ

日雇い労働者の給与計算において、所得税の源泉徴収は避けて通れない重要な業務です。
支払われる給与は給与所得として扱われ、労働者の状況に応じて「甲・乙・丙」のいずれかの区分を適用し、正確に税額を算出しなければなりません。
特に、雇用期間が2ヶ月以内といった条件を満たす場合に適用できる「丙欄」の仕組みを理解することは、実務の効率化に直結します。

また、源泉徴収だけでなく、社会保険の加入要件の確認、給与明細や源泉徴収票の発行義務、現金手渡し時の受領記録の確保など、関連する労務管理も一体として適切に行うことが、法令遵守と健全な事業運営の基盤となります。

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