給与計算を効率化するには?基礎知識や給与ソフトの検討ポイントを解説
中小企業の経営者や人事担当者の皆様にとって、毎月の給与計算業務は非常に重要でありながら、多くの時間と労力を要するものです。複雑な計算や頻繁な法改正への対応が必要となるため、担当者の負担が大きくなりがちです。本記事では、給与計算の基本的な流れや複雑さ、効率化の方法について解説します。特に、給与計算ソフトの導入に焦点を当て、そのメリット・デメリットや選び方のポイントを詳しくご紹介します。
この記事の監修

日本ペイロール株式会社
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
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給与計算の基本的な流れと複雑さ
給与計算は単に決められた基本給を支払うだけでなく、様々な要素を考慮する必要があるため複雑になりがちです。ここでは、給与計算業務に含まれる具体的な内容や、計算に時間がかかる要因、ミスが発生しやすい理由とそれに伴うリスク、そして必要となる専門知識について詳しく見ていきましょう。
給与計算業務に含まれる内容
給与計算業務には多岐にわたる内容が含まれます。まず、従業員の勤怠情報を収集し、労働時間や残業時間、休日出勤、有給休暇の取得日数などを正確に把握する必要があります。次に、基本給に加えて、役職手当、通勤手当、住宅手当などの各種手当を計算し、総支給額を算出します。また、雇用形態によって給与の計算方法が異なり、例えば日給制や日給月給制の場合は、働いた日数や欠勤・遅刻・早退によって支給額が変動するため、正確な勤怠管理が不可欠です。日給月給制では、1日単位で計算された給与を月ごとにまとめて支払いますが、欠勤などがあった場合はその分が月額から控除されます。総支給額が確定したら、所得税、住民税、社会保険料(健康保険、厚生年金、雇用保険、介護保険)などの控除額を計算し、最終的な差引支給額(手取り額)を算出します。これらの計算は、個々の従業員の状況や会社の規程によって異なるため、非常に細やかで正確な作業が求められます。
給与計算に時間がかかる要因
給与計算に時間がかかる主な要因はいくつかあります。第一に、従業員の数が増えるほど、勤怠情報の集計や個別の計算にかかる時間が増大します。特に、多様な雇用形態の従業員がいる場合や、フレックスタイム制、裁量労働制などを導入している場合は、勤怠集計がより複雑になります。第二に、残業手当や休日出勤手当、深夜手当などの割増賃金の計算は、労働時間帯や休日区分によって割増率が異なるため、正確な計算に時間を要します。第三に、社会保険料や所得税、住民税は、保険料率や税率が変更されることがあるため、常に最新の情報を把握し、計算に反映させる必要があります。さらに、育児休業や介護休業、傷病手当金などの社会保険に関する手続きが発生した場合、給与計算だけでなく関連する書類作成や届出にも対応しなければならず、これも時間を要する要因となります。
計算ミスが起きやすい理由とリスク
給与計算において計算ミスが起きやすい理由はいくつか考えられます。まず、手作業でのデータ入力や集計は、入力ミスや転記ミスが発生する可能性が高いです。特に、複雑な計算式をExcelなどで手動で組んでいる場合、数式の間違いや参照セルの誤りなども起こり得ます。また、頻繁に行われる法改正や保険料率の変更に対応しきれていない場合も、計算ミスにつながります。担当者の知識不足や確認不足もミスの原因となります。給与計算ミスが発生した場合、従業員からの信頼を失うだけでなく、労働基準法や所得税法、社会保険関連法などの法令違反となり、追徴課税や延滞税が発生したり、企業の信用問題に関わったりするリスクがあります。従業員からの問い合わせや修正対応に追われることも、担当者の負担をさらに増大させます。
給与計算に必要な専門知識
正確な給与計算を行うためには、幅広い専門知識が不可欠です。まず、労働基準法に関する知識は必須であり、労働時間、休憩時間、休日、割増賃金、有給休暇など、賃金支払いの原則を理解している必要があります。次に、健康保険法、厚生年金保険法、雇用保険法、労災保険法といった社会保険関連法の知識も求められます。これらの法律に基づき、社会保険料の計算や各種手続きを行う必要があります。また、所得税法や住民税法に関する知識も重要です。所得税や住民税の計算方法、扶養控除や各種控除に関する理解、年末調整の知識なども必要となります。これらの法律は頻繁に改正されるため、常に最新の情報を学び、業務に反映させていく継続的な学習が不可欠です。専門知識がないまま給与計算を行うことは、ミスや法令違反のリスクを高めることになります。

社労士 小栗の
アドバイス
外部委託のメリットは、専門家による正確な計算はもちろんのこと、担当者の退職や異動による引き継ぎリスクをなくせる点にあります。属人化しやすい給与計算業務を安定させたい場合は、外部委託も選択肢の一つとなります。
給与計算を効率化する方法
給与計算業務の効率化は、多くの企業にとって重要な課題です。効率化を図ることで、担当者の負担軽減、ミスの削減、そしてコスト削減が期待できます。給与計算を効率化する方法としては、主に外部委託の活用と給与計算ソフトの利用という二つのアプローチがあります。それぞれの方法にはメリット・デメリットがあり、自社の状況やニーズに合わせて最適な方法を選択することが重要です。
外部委託の活用
給与計算業務を外部の専門業者に委託することは、効率化の一つの有効な手段です。社会保険労務士事務所や給与計算代行会社などに業務を委託することで、自社で給与計算を行う手間を省き、専門的な知識を持ったプロに任せることができます。これにより、計算ミスのリスクを減らし、法改正への対応なども任せられるため、担当者は他の業務に集中することが可能となります。
外部委託のメリット
給与計算を外部に委託する最大のメリットは、自社で給与計算を行う必要がなくなることによる業務負担の大幅な軽減です。特に、経営者や他部署の従業員が給与計算を兼任している中小企業にとっては、コア業務に集中できるようになり、生産性の向上が期待できます。また、社会保険労務士や税理士などの専門家に依頼することで、社会保険や税務に関する最新の法改正にも適切に対応してもらえるため、法令違反のリスクを低減できます。さらに、給与計算のプロに任せることで、計算ミスを防ぎ、正確な給与計算が可能となります。これにより、従業員からの問い合わせや修正対応にかかる時間と労力を削減できるほか、担当者の退職や異動による引き継ぎの負担も軽減されます。
外部委託のデメリット
給与計算を外部に委託することにはデメリットも存在します。まず、委託費用が発生するため、コストが増加する可能性があります。特に従業員数が多い場合や、計算が複雑な場合は、費用が高くなる傾向があります。また、給与に関する情報という機密性の高い情報を外部に提供する必要があるため、情報漏洩のリスクがゼロではありません。委託先のセキュリティ体制をしっかりと確認する必要があります。さらに、給与計算業務を外部に任せることで、社内に給与計算に関するノウハウが蓄積されにくくなります。将来的に自社で給与計算を行いたいと考えた場合に、改めて人材育成が必要となる可能性があります。また、社内での急な確認や対応が必要になった場合に、外部委託しているとタイムリーな対応が難しい場合も考えられます。
給与計算ソフトの利用
給与計算ソフトを利用することも、給与計算業務を効率化する有力な方法です。給与計算ソフトは、勤怠情報や従業員情報をもとに給与・賞与額、社会保険料、所得税などを自動で計算する機能を備えています。特に、オンラインで利用できるクラウド型の給与計算ソフトであれば、インターネット環境があればどこからでもアクセス可能で、テレワークなど多様な働き方にも対応しやすいでしょう。また、従業員数が比較的少ない1人社長や個人事業主、中小企業向けの安価なソフトや無料プランを提供するソフトも存在します。給与計算ソフトを導入することで、手作業による計算の手間やミスを大幅に削減し、業務効率を向上させることができます。
給与計算ソフト導入のメリット
給与計算ソフトを導入する最大のメリットは、給与計算業務を大幅に効率化できることです。勤怠データを入力するか連携させるだけで、給与、残業代、各種手当、社会保険料、税金などが自動で計算されるため、手作業による計算の手間が省け、計算時間も短縮できます。これにより、担当者は他の重要な業務に時間を割くことが可能となります。また、自動計算機能により、計算ミスや入力ミスといったヒューマンエラーを減らすことができます。正確性が向上することで、従業員からの信頼を得やすくなり、法的なリスクも低減できます。さらに、多くの給与計算ソフトは法改正に自動で対応するため、担当者が常に最新の法律や保険料率を気にすることなく、安心して給与計算を行うことができます。給与明細の作成や発行も簡単に行えるソフトが多く、ペーパーレス化にもつながります。
給与計算ソフト導入のデメリット
給与計算ソフトの導入にはいくつかのデメリットも存在します。まず、ソフトの導入費用や月額利用料といったコストが発生します。無料トライアル期間を設けているソフトもありますが、本格的に利用するためには費用がかかることが一般的です。特に多機能なソフトや大規模な企業向けのソフトは費用が高くなる傾向があります。また、ソフトの操作方法を習得するための時間や、従業員への操作方法の教育が必要になる場合があります。導入当初は、慣れるまでに時間がかかることも考えられます。さらに、自社の給与規程や特別な計算方法にソフトが対応しているかを確認する必要があります。カスタマイズが必要な場合や、連携したい他のシステムとの互換性がない場合は、導入が難しいこともあります。加えて、クラウド型のソフトの場合はインターネット環境が必須であり、インストール型の場合はパソコンのOSなど動作環境に注意が必要です。

社労士 小栗の
アドバイス
給与計算ソフトを選ぶ際は、自社の給与規程(特に各種手当や残業代の計算方法)にソフトが対応しているか、という点を確認しましょう。自社のルールと異なる場合は、カスタマイズが可能か、ソフトに合わせたルール変更が現実的かなど、導入前に検討することが重要です。
給与計算ソフトを選ぶ際の検討ポイント
給与計算ソフトは様々な種類があるため、自社に合ったソフトを選ぶことが重要です。ソフト選びに失敗すると、かえって業務効率が低下したり、無駄なコストが発生したりする可能性があります。ここでは、給与計算ソフトを選ぶ際に考慮すべき主な検討ポイントについて詳しく解説します。
自社の規模に合っているか
給与計算ソフトを選ぶ際には、まず自社の規模に合っているかを確認することが重要です。給与計算ソフトには、従業員数名程度の小規模企業向けから、数百名、数千名規模の大企業向けまで様々な種類があります。小規模企業向けのソフトは、機能がシンプルで比較的安価な場合が多いですが、従業員数の増加に対応できない可能性もあります。一方、大規模企業向けのソフトは多機能で拡張性がありますが、価格が高く、使いこなすまでに時間がかかることもあります。自社の現在の従業員数だけでなく、将来的な事業拡大による従業員数の増加も考慮して、柔軟に対応できるソフトを選ぶと良いでしょう。また、企業規模だけでなく、従業員の雇用形態(正社員、契約社員、パート・アルバイトなど)の多様性や、給与体系(月給制、日給月給制など)の複雑さにも対応できるかどうかも確認が必要です。
利用にかかる費用
給与計算ソフトの導入や利用にかかる費用は、ソフトの種類や提供形態(クラウド型かインストール型か)、利用する機能や従業員数によって大きく異なります。初期費用として、ソフトの購入費用や導入設定費用がかかる場合があります。また、月額または年額の利用料(ランニングコスト)が発生するのが一般的です。特にクラウド型のソフトは月額課金制が多いです。従業員数に応じた従量課金制を採用しているソフトもあります。費用を比較検討する際には、単に月額料金だけでなく、初期費用、オプション機能の費用、サポート費用なども含めた総額で比較することが重要です。無料トライアル期間や無料プランを提供しているソフトもあるため、まずは試してみて費用対効果を確認するのも良い方法です。
操作の簡易さ、使いやすさ
給与計算ソフトは、給与計算業務を効率化するためのツールであるため、操作が簡単で使いやすいかどうかが非常に重要なポイントです。特に、給与計算ソフトの利用に慣れていない担当者や、ITツールに不慣れな担当者が操作する場合、直感的で分かりやすいインターフェースを備えているソフトを選ぶと良いでしょう。無料トライアル期間などを活用して、実際に操作してみて、入力のしやすさ、計算結果の見やすさ、必要な情報へのアクセスしやすさなどを確認することをおすすめします。また、操作マニュアルが充実しているか、困ったときに問い合わせできるサポート体制があるかどうかも、使いやすさに影響する要因です。簡単に入力や操作ができるソフトであれば、担当者の教育にかかる時間や労力も削減できます。
法改正への対応
労働関連法や税法、社会保険関連法は頻繁に改正が行われます。給与計算はこれらの法令に則って正確に行う必要があるため、法改正への対応は給与計算ソフト選びにおいて非常に重要なポイントです。多くの給与計算ソフトは、法改正があった際に自動でプログラムがアップデートされ、常に最新の法令に対応できるようになっています。これにより、担当者が法改正の内容を個別に調べたり、計算方法を変更したりする手間が省け、法的なリスクを回避することができます。ソフトを選ぶ際には、法改正への対応が迅速かつ確実に行われる体制が整っているか、アップデートは自動で行われるのか、それとも手動での対応が必要なのかなどを確認すると良いでしょう。
他のシステムとの連携機能
給与計算業務は、勤怠管理や会計業務と密接に関連しています。そのため、給与計算ソフトがこれらの他のシステムと連携できるかどうかも、効率化を図る上で重要な検討ポイントとなります。例えば、勤怠管理システムと連携できる給与計算ソフトであれば、従業員の出退勤データや残業時間データなどを自動で取り込むことができ、勤怠集計の手間を省けます。また、会計システムと連携できれば、給与データを会計仕訳として自動で転送できるため、経理業務の効率化にもつながります。現在利用しているシステムや、今後導入を検討しているシステムがある場合は、それらのシステムと連携が可能かどうかを確認することで、業務フロー全体の効率化を図ることができます。
まとめ 給与計算ソフトで業務効率を向上させよう
給与計算業務は、中小企業の経営において不可欠でありながら、その複雑さゆえに多くの時間と労力を要し、計算ミスや法改正への対応といった課題を伴います。これらの課題を解決し、業務効率を向上させるためには、給与計算ソフトの導入が非常に有効な手段となります。給与計算ソフトは、勤怠情報の集計から給与・賞与、社会保険料、税金の計算、さらには給与明細の発行までを自動化し、担当者の負担を大幅に軽減します。手作業による計算ミスを防ぎ、正確性を向上させるだけでなく、法改正にも迅速に対応できるため、法的なリスクを低減できます。給与計算ソフトを選ぶ際には、自社の規模や従業員数、給与体系に合っているか、利用にかかる費用、操作の簡易さや使いやすさ、法改正への対応状況、そして他のシステムとの連携機能などを総合的に検討することが重要です。自社に最適な給与計算ソフトを導入することで、給与計算業務の効率化を実現し、担当者がより戦略的な業務に集中できる環境を整え、企業の成長につなげましょう。