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コラム

給与計算をAIで自動化。仕事はなくなる?RPAとの違いやクラウドソフトも解説

2025.09.26

給与計算業務の自動化は、多くの企業にとって重要な課題です。
特にAI活用への関心は高まっており、従来のRPAとの違いを理解し、自社に最適なツールを選ぶことが求められます。
AIの導入によって給与計算業務がどのように変化し、担当者の仕事がなくなるのか、それとも新たな役割が生まれるのか、本記事ではAIによる自動化の範囲やメリット、担当者に求められるスキルについて解説します。

これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。

現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。

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https://www.tokai-sr.jp/staff/oguri

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AIで給与計算はどこまで自動化できる?

AIを搭載した給与計算システムは、業務の大部分を自動化する能力を備えています。
具体的には、勤怠管理システムから打刻データを自動で取り込み、残業時間や深夜労働、休日出勤などを算出して給与に反映させることが可能です。
また、社会保険料や雇用保険料、所得税、住民税といった各種控除額も、最新の法令や税率に基づいて自動計算します。
最終的な計算結果のチェックや、従業員ごとの特殊な事情への対応など、一部の業務では依然として人の判断が必要ですが、定型的な計算やデータ入力作業は大幅に削減されます。

AIとRPAの違いとは?給与計算におけるそれぞれの役割

AIとRPAは混同されがちですが、その役割は異なります。
RPAは「RoboticProcessAutomation」の略で、あらかじめ設定されたルールに従って定型的なパソコン操作を自動化する技術です。
一方、AIは大量のデータから学習し、自ら判断基準を見つけ出して処理を実行します。
給与計算業務においては、RPAが勤怠システムからデータをダウンロードして給与計算システムへ入力するといった単純な反復作業を担い、AIは複雑な手当の計算や過去のデータから異常値を検知するといった判断を伴う作業を担当するなど、両者を組み合わせることで、より高度な自動化を実現できます。

給与計算にAIを導入する3つのメリット

給与計算にAIを導入することで、業務効率の大幅な向上が期待できます。
手作業による計算やデータ入力を自動化することで、担当者の負担を軽減し、より付加価値の高い業務に時間を割くことが可能になります。
また、クラウド型のシステムを導入すれば、場所を選ばずに業務を行えるため、リモートワークといった多様な働き方にも柔軟に対応できます。
本章では、AI導入がもたらす具体的なメリットを3つの側面から解説します。

煩雑な手作業を減らし業務時間を大幅に短縮

給与計算業務には、勤怠データの集計、残業代や各種手当の計算、社会保険料や税金の算出など、多くの手作業が含まれます。
AIを導入することで、これらの定型的な計算処理を自動化し、担当者が手作業で行っていた時間を大幅に短縮することが可能です。
これにより、月末月初の繁忙期に集中しがちだった業務負荷が平準化されます。
手作業が完全になくなるわけではありませんが、作業時間が削減された分、担当者は従業員からの問い合わせ対応や、より専門的な労務管理といったコア業務に注力できるようになります。

計算ミスや入力漏れなどのヒューマンエラーを防止

人間が手作業で給与計算を行う場合、どれだけ注意を払っていても計算ミスやデータの入力漏れといったヒューマンエラーが発生するリスクを完全には排除できません。
給与計算のミスは、従業員との信頼関係を損なうだけでなく、追加の修正作業や場合によっては遅延損害金の支払いといった事態にも発展しかねません。
AIはプログラムされたルールに基づき、正確かつ高速に計算を実行するため、人為的なミスを根本から防ぐことができます。
これにより、給与計算の正確性が向上し、業務に関わる様々なリスクを低減させます。

複雑な法改正や税制変更にもスムーズに対応

給与計算に関連する法律や税制は、毎年のように改正が行われます。
社会保険料率の変更や所得税法の改正など、その都度最新の情報を収集し、正確な知識を学ぶことは担当者にとって大きな負担です。
クラウド型のAI給与計算システムの多くは、法改正や税制変更があると、システム側で自動的にアップデートが行われます。
担当者が自ら料率の変更作業を行う必要がなく、常に最新の法令に準拠した状態で給与計算が実行されるため、対応漏れのリスクを防ぎ、安心して業務を遂行できます。

社労士 小栗の
アドバイス

給与計算の担当者が常に直面する最大の課題は、毎年のように行われる社会保険料率や税制の改正への対応です。クラウド型のAIシステムが自動でアップデートしてくれる機能は、コンプライアンス違反のリスクをゼロに近づけるための、最も強力なツールと言えます。担当者の負担軽減だけでなく、法令順守という企業の根幹に関わる部分で、AIのメリットは計り知れません。

AI導入前に知っておきたい注意点とデメリット

AIの導入は給与計算業務に多くのメリットをもたらしますが、事前に検討すべき注意点やデメリットも存在します。
導入には初期費用やランニングコストが発生し、費用対効果を慎重に見極める必要があります。
また、従業員の個人情報という機密性の高いデータを取り扱うため、万全なセキュリティ対策が不可欠です。
AIが万能ではないことを理解し、導入における課題をあらかじめ把握しておくことが、スムーズな運用への第一歩となります。

システム導入や運用にコストがかかる

AI搭載の給与計算システムを導入する際には、初期費用と継続的な運用コストが発生します。
初期費用には、システムのライセンス購入費や、自社の給与体系に合わせた初期設定をベンダーに依頼する際の設定費用などが含まれます。
運用コストとしては、クラウドサービスの月額利用料や、システムの保守・アップデートにかかる費用が挙げられます。
これらのコストは、業務効率化によって削減できる人件費や、ヒューマンエラー防止による損失回避といったメリットと比較し、長期的な視点で投資対効果を判断することが求められます。

個人情報を取り扱うためのセキュリティ対策が必須

給与データには、従業員の氏名、住所、マイナンバー、口座情報といった機密性の高い個人情報が含まれています。
そのため、AI給与計算システムを導入する際は、情報漏洩や不正アクセスを防ぐための強固なセキュリティ対策が不可欠です。
システムの選定にあたっては、データの暗号化、アクセスログの管理、不正侵入検知システムなど、ベンダーが提供するセキュリティ機能を入念に確認する必要があります。
また、社内においても、誰がどの情報にアクセスできるかという権限を厳格に設計し、運用ルールを整備・徹底することが重要です。

イレギュラーな対応には人の判断が必要

AIは定型的な処理や膨大なデータの計算を得意としますが、予期せぬ事態や個別の特殊なケースへの対応は苦手です。
例えば、従業員1人の特別な事情による給与体系の変更、急な休職や復職に伴う日割り計算、就業規則にない特殊な手当の支給など、前例のないイレギュラーな事案が発生した際には、依然として人間の担当者による状況判断と柔軟な対応が求められます。
AIを万能のツールと過信するのではなく、あくまで業務を支援するパートナーと位置づけ、最終的な判断は人が行うという体制を構築することが重要です。

社労士 小栗の
アドバイス

AIが苦手とする「イレギュラー対応」の処理こそ、労務トラブルの温床になりがちです。システム導入前に、就業規則や賃金規程に記載されていない、過去の慣習的な手当や控除の運用を洗い出し、AIシステムに設定できるルールとして落とし込むか、人事担当者がマニュアルに基づき最終判断を行うプロセスを明確にしてください。AIに丸投げせず、最終チェックと判断基準の明確化こそ、担当者の新しい役割です。

AIに給与計算の仕事は奪われる?担当者の役割の変化

AIの導入により、これまで人が行っていたデータ入力や計算といった定型業務は確実に自動化されていきます。
このため、「給与計算の仕事はなくなるのではないか」という懸念が生じるのは自然なことです。
しかし、仕事が完全に消滅するわけではなく、その役割が大きく変化すると捉えるべきです。
AIと人間が業務をシェアする形となり、担当者は単純作業から解放され、より専門性や創造性が求められる業務へとシフトしていくことになります。

AI時代に活躍する給与計算担当者に必要なスキル

AIが給与計算の定型業務を担うようになると、担当者にはこれまでとは異なるスキルが求められます。
AIが出力したデータをただ確認するだけでなく、その背景を分析し、経営改善に役立てる提言を行う能力が重要になります。
また、システムを円滑に運用するためのIT知識や、従業員からの複雑な問い合わせに的確に答えるコミュニケーション能力も不可欠です。
将来的には、社内の人事労務に関する専門家、あるいはコンサルのような役割を担うことが期待されます。

データを分析し経営戦略に活かす能力

AI搭載の給与計算システムや会計ソフトは、人件費や残業時間、労働生産性に関する膨大なデータを蓄積します。
これからの担当者には、これらのデータを単に処理するだけでなく、分析して経営に有益なインサイトを導き出す能力が求められます。
例えば、部署ごとの残業時間の推移を分析して業務プロセスの改善点を提案したり、人件費の変動要因を特定して将来のコスト予測を行ったりするなど、データに基づいた戦略的な提言を行うことで、経営層の意思決定を支援する重要な役割を担うことができます。

AIシステムを管理・運用するITリテラシー

AI給与計算システムを効果的に活用するためには、基本的なITリテラシーが不可欠です。
システムの導入にあたって、自社の要件をベンダーに正確に伝えたり、初期設定やマスタデータのメンテナンスを適切に行ったりするスキルが求められます。
また、システムにエラーが発生した際の一次切り分けや、ベンダーのサポート担当者と円滑にコミュニケーションをとるためにも、システムに関する一定の知識が必要です。
プログラミングのような高度な専門知識は不要ですが、システムを使いこなすための理解力と応用力が重要になります。

従業員からの問い合わせに柔軟に対応する力

給与計算がAIによって自動化されても、従業員からの問い合わせがなくなるわけではありません。
「なぜ今月の手取り額が先月と違うのか」「この控除項目の計算根拠は何か」といった個別具体的な質問に対して、AIが算出した結果を基に、分かりやすく説明する役割は依然として人間に残ります。
システムのロジックを理解した上で、個々の従業員の状況に寄り添い、丁寧かつ的確に回答するコミュニケーション能力は、AI時代においてますますその価値を高めていくと考えられます。

社労士 小栗の
アドバイス

AIが定型計算を担うことで、人事労務担当者の業務は「給与計算のプロ」から「制度運用とデータ活用のプロ」へと進化します。単なる計算スキルではなく、賃金規定の法的解釈や、社会保険・労働法の専門知識をもってAIの計算結果をチェックし、問題点を指摘・修正できる能力が求められます。これに加えてITリテラシーを身につけることが、AI時代を生き抜く給与計算担当者のキャリアアップに不可欠です。

AI搭載の給与計算クラウドソフトを選ぶ際のポイント

AIを搭載した給与計算クラウドソフトの導入を成功させるには、自社の状況に合った製品を選ぶことが極めて重要です。
市場には様々な特徴を持つソフトが存在するため、機能の豊富さや価格だけで判断するのではなく、現在使用しているシステムとの連携性や、自社の企業規模、将来的な事業拡大の可能性などを総合的に考慮する必要があります。
導入後のサポート体制も、安心して運用を続けるための重要な選定ポイントとなります。

自社の勤怠管理システムと連携できるか

給与計算の効率化を最大化するためには、勤怠管理システムとのデータ連携が不可欠です。
すでに利用している勤怠管理システムや打刻用のアプリがある場合、給与計算ソフトがそれらとAPI連携などでスムーズにデータを自動で取り込めるかを確認することが最初のポイントです。
もし連携ができない場合、勤怠データを手作業でCSVファイルなどに出力し、給与計算ソフトにインポートする手間が発生します。
この手作業はミスの原因にもなるため、可能な限りシームレスに連携できる製品を選ぶべきです。

企業の規模や従業員数に合っているか

給与計算ソフトは、対応する企業の規模によって機能や料金体系が大きく異なります。
従業員が数名のスタートアップ企業と、数百人から数千人規模の企業では、求められる機能や管理の複雑さが全く違います。
例えば、複雑な就業規則や多様な雇用形態に対応できるか、組織階層に応じた権限設定が可能かといった点を確認する必要があります。
料金プランも、従業員1人あたりの課金体系なのか、月額固定制なのかなど様々です。
自社の現在の従業員数と将来的な増加見込みを考慮し、最適な規模のシステムを選定することが重要です。

導入後のサポート体制は充実しているか

給与計算はミスが許されない重要な業務であるため、システムの導入後、不明点やトラブルが発生した際に迅速なサポートを受けられるかは非常に重要です。
電話、メール、チャットといった問い合わせ窓口の種類や、対応時間(平日のみか、夜間や休日も対応しているか)などを事前に確認しましょう。
また、単なる操作方法の案内だけでなく、法改正時の設定変更や、より効率的な活用方法に関するアドバイスなど、専門的なコンサルティングに近いサポートを提供してくれるベンダーであれば、長期的に安心してシステムを利用し続けることができます。

まとめ

AIを給与計算に活用することで、手作業によるミスを削減し、業務時間を大幅に短縮できます。
特にクラウド型のシステムは、複雑な法改正にも自動で対応するため、担当者の負担を大きく軽減します。
AIの導入は、既存の仕事を奪うのではなく、単純作業を自動化し、担当者がデータ分析や制度設計といった、より付加価値の高い業務へシフトする機会を生み出します。
自社の勤怠管理システムとの連携性や企業規模、サポート体制を考慮して最適なクラウド給与計算システムを選び、AIを積極的に活用することが、今後の人事労務部門の生産性向上に不可欠です。

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