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コラム

有給休暇の給与計算と関連するルール

2025.09.09

有給休暇の給与計算と関連するルール

有給休暇は、労働者の心身のリフレッシュを目的とした制度であり、労働基準法で定められた労働者の権利です。有給休暇中の賃金計算方法には3つの選択肢があり、それぞれの方法で計算された賃金が支払われます。年次有給休暇に関するルールは、給与計算を正確に行う上で理解が不可欠です。

これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。

現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。

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有給休暇の基本的な情報

有給休暇、正式名称は年次有給休暇といい、労働者が心身の疲労を回復し、ゆとりある生活を送るために設けられた制度です。企業は、労働基準法に基づき、一定の条件を満たした労働者に対して有給休暇を付与する義務があります。この権利は、労働者の雇用形態に関わらず、パートタイム労働者にも適用されます。

有給休暇の付与条件と日数

有給休暇の付与には労働基準法で定められた2つの条件があります。まず、雇い入れの日から6ヶ月間継続勤務していること、次に、その期間の全労働日の8割以上出勤していることです。これらの条件を満たした場合、最初の有給休暇が付与されます。フルタイムで働く正社員の場合、入社から6ヶ月後に10日間、その後1年半後に11日、2年半後に12日と、勤続年数に応じて毎年付与日数が増えていき、最大で20日間が付与されます。パート、アルバイトなど短時間勤務の労働者にも有給休暇は付与されますが、週の所定労働日数や1年間の所定労働日数に応じて日数が比例して付与される点が特徴です。例えば、週1日勤務のバイトであれば半年後に1日、週2日勤務では3日、週3日勤務では5日、週4日勤務では7日が付与されます。特に、年間10日以上の有給休暇が付与されるパートやアルバイトの労働者に対しても、企業側は年5日の有給休暇を取得させる義務が発生するため、適切な管理が求められます。

有給休暇の給与計算方法

有給休暇中の給料の計算方法は、労働基準法第39条第9項により、以下の3つのうちいずれかの賃金計算方法を就業規則に記載し、その方法に基づいて支払うことが定められています。これらの計算方法を従業員や状況によって臨機応変に変更することはできません。それぞれの計算方法にはメリットとデメリットがあり、会社の状況や従業員の働き方に応じて適切な方法を選択し、就業規則に明記することが重要です。一般的に多くの企業で採用されているのは、通常勤務と同じ賃金を支払う方法です。この方法が最も計算が簡単で、従業員にとっても分かりやすいという利点があります。

通常勤務と同じ賃金での計算

有給休暇を取得した日に、通常勤務した場合と同じ賃金を支払う方法が、最も一般的で計算が簡単な有給休暇の給与計算方法です。月給制の正社員の場合、有給休暇を取得しても給与額は変動しないため、事務処理が簡略化されます。日給制の場合、日給がそのまま有給休暇日の賃金となります。例えば、日給12,000円であれば、有給取得日も12,000円が支払われます。時給制の労働者(パートやアルバイトを含む)の場合も、通常の勤務と同様に「時給×所定労働時間」で賃金を計算します。週給制の場合は、「週給÷有給を取得した週の所定労働日数」で算出します。この計算方法は、従業員にとっても給与額が変わらないため、有給休暇を取得しやすいというメリットがあります。

平均賃金での計算

平均賃金での計算は、労働基準法第12条に基づいて算出される方法です。これは、直近3ヶ月間の賃金総額を、その期間の総日数(休日や祝日を含む歴日数)で割って算出されます。例えば、給与が月末締め・翌月20日払いの従業員で、7月31日時点で平均賃金を算出する場合、4月から6月の3ヶ月間の賃金総額を、その期間の総日数で割ります。この方法では、所定労働時間が従業員ごとや日ごとに異なるアルバイトやパートが多い場合に、有給休暇取得時の給与を一定にできるというメリットがあります。ただし、計算に手間がかかることや、通常の賃金に比べて有給休暇1日あたりの給与が低くなる場合があるため、従業員のモチベーション低下につながる可能性も考慮する必要があります。また、労働日数が極端に少ない従業員の場合には、最低保証額と比較し、高い方の金額を支払う必要があります。

標準報酬日額での計算

標準報酬日額での計算は、健康保険法第40条第1項の標準報酬月額を基に、有給休暇の給与を算出する方法です。具体的には、標準報酬月額を30で割って標準報酬日額を算出し、有給休暇日の賃金として支払います。この計算方法を採用する場合、労使協定の締結が必要となります。計算の手間は平均賃金を用いる方法よりも少ないですが、標準報酬月額が非常に高い従業員にとっては、通常賃金や平均賃金での計算に比べて有給休暇取得時の給与が不利になる可能性があるため、注意が必要です。就業規則にこの計算方法を明記し、従業員への説明を十分に行うことが求められます。

退職時の有給休暇の取り扱い

退職時に有給休暇が残っている場合、原則として退職日までに有給消化をすることが望ましいとされています。しかし、引き継ぎや退職準備などで有給消化が難しいケースもあります。このような場合、企業と従業員双方の合意があれば、未消化の有給休暇を企業が買い取ることも可能です。労働基準法では有給休暇の買い取りについて明確な規定はないため、企業に買い取り義務はありませんが、例外的に退職時の買い取りは認められています。ただし、買い取りを拒否することも企業の判断に委ねられています。買い取り金額は企業が自由に設定できますが、就業規則に買い取りに関する規定を設けておくことが、後々のトラブルを避ける上で重要です。退職に伴う有給休暇の買い取り金は、税法上「退職所得」として扱われることが一般的ですが、その他のケースでは「給与所得」扱いとなるため、税務処理にも注意が必要です。

社労士 小栗の
アドバイス

有給休暇の給与計算方法は、企業の就業規則で明確に定める必要があります。一度定めた方法を途中で変更することは原則としてできませんので、自社の給与体系や従業員の働き方を考慮して、慎重に選択することが重要です。

有給休暇取得に関する注意点

有給休暇の取得に関しては、企業が法令遵守と従業員のワークライフバランスの両立を図る上で、いくつかの重要な注意点が存在します。2019年4月に施行された年間5日取得義務化をはじめ、手当の扱い、時間単位での取得、最低賃金との関連、不利益な扱いの禁止といった点は、企業が有給管理を行う上で正確に理解し、適切に対応していく必要があります。これらのルールを遵守することは、従業員が安心して有給休暇を取得できる環境を整備し、企業としての信頼性を高めることにもつながります。

2019年4月からの年間5日取得義務

2019年4月の働き方改革関連法案の施行により、企業は、年次有給休暇が10日以上付与される全ての労働者に対し、年5日の有給休暇を確実に取得させることが義務付けられました。これには管理監督者や有期雇用労働者も含まれます。この義務化は、日本の有給休暇取得率の低さを改善し、労働者の心身の健康とワーク・ライフ・バランスの向上を目的としています。企業は、労働者からの請求がなくても、時季を指定して有給休暇を取得させることが可能です。もし企業がこの年間5日の有給休暇取得義務を怠った場合、労働基準法違反となり、労働者1人につき30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。例えば、4月1日に入社し、10月1日に10日間の有給休暇が付与される場合、その日から1年以内に5日間の有給休暇を取得させる義務が発生します。企業は、有給休暇管理簿の作成と3年間の保存が義務付けられており、誰がいつ、何日有給休暇を取得したかを正確に記録する必要があります。

有給休暇取得時の手当の扱い

有給休暇を取得した日の賃金は、原則として通常の勤務日と同様に支払われます。しかし、通勤手当や皆勤手当など、法定外の手当については、その扱いが給与規定や就業規則によって異なります。例えば、通勤手当が日割り計算で支給される場合や、「実際に通勤した日数の通勤手当のみ支給する」と就業規則に規定されている場合は、有給休暇取得日の通勤手当は支給されないことがあります。一方で、定期代のように月額固定で通勤手当が支給されている場合は、有給休暇を取得しても従業員の費用負担が減るわけではないため、通常通り支給するのが一般的です。また、皆勤手当のように、一定日数以上の出勤を条件に支給される手当は、有給休暇取得日を出勤とみなすかどうかによって支給の有無が変わる可能性があります。トラブルを避けるためにも、有給休暇取得時の各種手当の取り扱いについて、就業規則に明確に規定しておくことが重要です。

時間単位での有給休暇取得

有給休暇は通常1日単位で取得するのが一般的ですが、労使協定を締結することで、年間5日分を上限として時間単位での有給休暇取得を認めることが可能です。この制度は、2010年4月に施行された改正労働基準法により導入されました。時間単位での取得を可能にすることで、労働者は通院や子どもの学校行事など、半日や1日単位で休むほどではない短時間の用事にも柔軟に対応できるようになり、ワークライフバランスの向上に貢献します。時間単位で取得できる上限は年間5日であり、所定労働時間が7時間30分のように端数がある場合は、時間単位に切り上げて計算します。例えば、1日の所定労働時間が8時間の会社であれば、年間5日分は40時間まで時間単位の有給として取得できることになります。この制度を導入する際は、就業規則に時間単位有給休暇に関する規定を設け、労使協定の内容を明確に定める必要があります。

最低賃金との関連

有給休暇取得日の賃金を計算する際、選択したいずれかの計算方法(通常賃金、平均賃金、標準報酬日額)で算出した金額が、各都道府県で定められている最低賃金を下回ってはいけません。労働基準法上、有給休暇の賃金が最低賃金を下回ることは違法とされています。特に、平均賃金で計算する場合、直近3ヶ月間の労働日数が極端に少ないケースなどでは、1日あたりの賃金が低く算出されることがあります。このような場合でも、最低賃金法に抵触しないよう、最低保証額と比較して高い方の金額を支払う必要があります。最低賃金は毎年改定されるため、企業は常に最新の情報を確認し、有給休暇の給与計算方法が最低賃金を下回らないように定期的な見直しを行うことが不可欠です。

社労士 小栗の
アドバイス

時間単位の有給休暇は、労使協定を締結することで導入できます。これにより、労働者は通院や私的な用事でも有給を有効活用できるようになり、従業員満足度の向上につながります。ただし、時間単位で取得できるのは年間5日分が上限なので注意しましょう。

不利益な扱いの禁止

企業は有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額や人事考課上の不利益な取り扱いなど、不利益な扱いをすることを労働基準法第136条により禁止されています。これは労働者が有給休暇を自由に取得できる権利を保障するための重要な規定です。例えば有給休暇を取得したことを理由に、賞与を減額したり、昇進・昇給の評価を下げることなどは認められません。皆勤手当のような特定の要件を満たした場合に支給される手当についても、有給休暇取得日を出勤として扱わないことで手当を不支給とするような扱いは、有給休暇取得に対する不利益な取り扱いとみなされる可能性があります。就業規則に有給休暇取得に関する不利益な取り扱いを禁止する旨を明記し、従業員が安心して有給休暇を取得できる環境を整備することが、法令遵守上も企業倫理上も求められます。

有給休暇の繰り越しと上限

有給休暇には、年度内に消化しきれなかった分を翌年度に持ち越せる繰り越しという仕組みがあります。この繰り越し制度は、労働者が付与された有給休暇を有効に活用できるよう配慮されたものですが、そこには時効や最大保有日数などのルールが存在します。企業はこれらのルールを正確に理解し、適切に有給管理を行う必要があります。

有給休暇の繰り越しルール

有給休暇は、付与された日から2年が経過すると時効により消滅します。このため、年度内に使い切れなかった有給休暇は、翌年度に一度だけ繰り越すことが可能です。労働基準法第115条で有給休暇の請求権の時効が2年と定められているため、企業は未消化の有給休暇を翌年も取得できるようにする義務があります。例えば、新入社員が6ヶ月後に10日の有給休暇を付与され、その年度中に6日を消化した場合、残りの4日は翌年度に繰り越されます。この繰り越された4日間の有効期間は、最初に付与された日から2年間となります。有給休暇の繰り越しは雇用形態に関わらず、パートタイム労働者にも適用されます。企業は、従業員が有給休暇を計画的に取得できるよう促し、時効により消滅しないよう適切な有給管理を行う責任があります。一般的に、繰り越された有給休暇は、新たに付与された有給休暇よりも先に消化されるという運用が推奨されています。これは、先に時効が到来する繰り越し分を優先的に消化することで、従業員の権利を保護するためです。

繰り越し日数の上限

有給休暇の繰り越し日数には上限が設定されています。労働基準法では有給休暇の付与日数の上限が年間20日とされており、この20日分を翌年度に繰り越すことが可能です。したがって、前年度からの繰り越し分と当年度に新たに付与される分を合わせると、労働者が最大で保有できる有給休暇の日数は40日となります。例えば、勤続年数6.5年以上のフルタイム労働者には年間20日の有給休暇が付与されますが、前年度の未消化分が20日あった場合、繰り越し分20日と新規付与分20日で合計40日の有給休暇を保有することになります。ただし、企業が法律で定められた日数以上の有給休暇を独自に付与している場合や、年度途中で有給付与の基準日を変更したような特別なケースでは、一時的に保有日数が40日を超えることもあり得ます。時間単位で取得できる有給休暇についても、年間5日(所定労働時間8時間の企業では40時間)を上限として繰り越すことが可能ですが、取得上限は繰り越し分を含めて5日以内である点に注意が必要です。

繰り越しの計算例

有給休暇の繰り越しの計算方法は、以下の例で考えると分かりやすくなります。例えば、勤続年数2.5年の正社員Aさんがいるとします。この場合、Aさんには当年度に12日の有給休暇が新たに付与されます。もしAさんが前年度に5日の有給休暇を使い残しており、それが繰り越されている場合、Aさんが保有する有給休暇は「前年度繰り越し分5日+当年度付与分12日=合計17日」となります。Aさんがこの17日の中から3日間の有給休暇を取得した場合、通常は時効が先に到来する前年度繰り越し分から消化されるため、残りの有給休暇は「前年度繰り越し分2日+当年度付与分12日=合計14日」となります。このように、有給休暇は付与された年度ごとに時効が管理され、繰り越された分から優先的に消化されるのが一般的です。企業は、従業員個々の有給休暇の付与日、消化状況、残日数を正確に把握し、繰り越しによって有給休暇が消滅しないよう、計画的な取得を促す必要があります。勤怠管理システムなどを活用することで、これらの複雑な計算方法や管理を効率化できます。

まとめ

有給休暇は、労働者の心身の健康とワークライフバランスを保つために非常に重要な制度であり、その給与計算や関連するルールは企業が正確に理解し、適切に運用する必要があります。有給休暇の給与計算方法には「通常勤務と同じ賃金」「平均賃金」「標準報酬日額」の3つの選択肢があり、いずれも就業規則への明記と遵守が求められます。特に2019年4月からは、年間10日以上付与される労働者に対する年5日の有給休暇取得義務が課されており、企業はこの義務を果たすための有給管理が不可欠です。退職時の有給消化や、未消化分の買い取りに関する取り扱いも慎重に行う必要があります。さらに、有給休暇には2年間の時効があり、未消化分は翌年度に繰り越せますが、最大保有日数は40日といった上限も存在します。時間単位での取得や、手当の扱い、最低賃金との関連、不利益な扱いの禁止など、多岐にわたる注意点を踏まえ、企業は透明性の高い有給休暇制度を構築し、従業員が安心して休暇を取得できる環境を整備することが重要です。

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