給与計算の初心者向け|基礎からわかる計算方法と必須ルールを解説
初めて給与計算を担当する方にとって、その業務は複雑に感じられるかもしれません。しかし、給与計算の基礎知識を一つひとつ理解すれば、決して難しいものではありません。
この記事では、給与計算の基本知識から具体的な計算方法、守るべきルールまで、初心者が押さえておくべき基礎をわかりやすく解説します。
正確な給与計算は、従業員との信頼関係を築く上で非常に重要です。
この記事の監修

日本ペイロール株式会社
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
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まずはここから!給与計算の基本となる3つの構成要素
給与計算の全体像を把握するために、まずは給与明細書に記載される3つの基本要素を理解しましょう。
それは「総支給額」「控除額」「差引支給額」です。
総支給額は基本給や各種手当を合計した、いわゆる年収の基になる金額です。
控除額は社会保険料や税金など、総支給額から差し引かれる金額を指します。
そして、総支給額から控除額を引いたものが、従業員が実際に受け取る手取り額、つまり差引支給額です。
この3つの要素の内容と関係性を知ることが、給与明細書の見方を理解する第一歩となります。
給与計算を始める前に準備すべき4つのこと
正確な給与計算を行うためには、事前の準備が欠かせません。
計算を始める前に、必要な情報や書類を整えておくことで、作業をスムーズに進め、ミスを防ぐことができます。
特に初めて担当する場合は、会社のルールを確認したり、従業員一人ひとりの情報を正確に把握したりする作業が重要です。
専門的な知識が求められる場面もありますが、社内のマニュアルや公的機関が提供する情報を参考にしながら、一つずつ着実に準備を進めましょう。
会社のルールブック「就業規則」と「給与規程」を確認する
給与計算を行う上で最も基本的な拠り所となるのが、会社の「就業規則」および「給与規程」です。
これらの書類には、給与計算の土台となる重要なルールが定められています。
具体的には、基本給の決定方法、役職手当や通勤手当といった各種手当の支給条件と金額、給与の締日と支払日、さらには時間外労働や休日労働に関する割増賃金の計算方法などが明記されています。
計算を始める前には必ずこれらの規定に目を通し、自社のルールを正確に理解しておくことが、誤りのない給与計算の第一歩となります。
不明な点があれば、必ず上長や前任者に確認してください。
従業員の扶養情報や保険加入状況を把握する
所得税や社会保険料の計算には、従業員一人ひとりの個人情報が不可欠です。
入社時には「扶養控除等(異動)申告書」を提出してもらい、扶養家族の有無や人数を正確に把握する必要があります。
この情報は、源泉徴収する所得税額を決定する上で重要な要素となります。
また、健康保険や厚生年金保険、雇用保険といった社会保険の加入状況も確認が必須です。
特に、パートやアルバイトであっても、所定の労働時間や日数を満たす場合は社会保険の加入義務が発生します。
正社員だけでなく、すべての従業員の加入資格を正しく判断し、手続きを行うことが求められます。
タイムカードや勤怠システムで労働時間を集計する
給与計算の基礎となるのは、従業員の正確な労働時間です。タイムカードや出勤簿、ICカード、勤怠管理システムなど、会社で定められた方法で記録された勤怠データを集計します。
集計にあたっては、始業・終業時刻だけでなく、休憩時間や遅刻・早退の時間も正確に把握し、実労働時間を算出することが重要です。特に、法定労働時間を超える時間外労働や、休日労働、深夜労働の時間については、割増賃金の計算が必要になるため、それぞれを分けて集計しなければなりません。
労働時間の管理は給与計算の正確性に直結するため、日々の記録と集計は慎重に行う必要があります。
社会保険と労働保険の加入手続きを済ませておく
従業員を雇用した場合、事業主は社会保険(健康保険・厚生年金保険)および労働保険(雇用保険・労災保険)への加入手続きを行う義務があります。
これらの手続きは、給与から保険料を控除するための大前提となります。
手続きは、管轄の年金事務所やハローワーク、労働基準監督署で行い、それぞれに期限が定められているため注意が必要です。
例えば、健康保険・厚生年金保険の「被保険者資格取得届」は、雇用開始から5日以内に提出しなければなりません。
手続きが遅れると、従業員が不利益を被るだけでなく、遡って保険料を納付する必要が生じるなどの注意点があるため、速やかに済ませておくべきです。
【初心者でも安心】給与計算の具体的な3ステップ
給与計算の実務は、大きく分けて3つのステップで構成されています。
この給与計算の手順を順番に踏むことで、初心者でも体系的に業務を理解し、進めることが可能です。
まずは会社全体の給与の総額である「総支給額」を算出します。
次に法律に基づいて天引きする「控除額」を計算し、最後に総支給額から控除額を差し引いて、従業員へ支払う「手取り額」を確定させます。
この一連の流れを正確に行うことが、給与計算方法の基本です。
Step1. 基本給と各種手当を合算して「総支給額」を算出する
最初のステップは、従業員に支払う給与の総額である「総支給額」を計算することです。
これは、給与規程で定められた基本給に、役職手当、資格手当、通勤手当、時間外手当といった各種手当を足し合わせることで算出します。
時間外手当などの変動する手当は、集計した勤怠データに基づいて正確に計算する必要があります。
この段階は、従業員一人ひとりの支給項目を確認しながら進めるため、手計算や手作業で行う場合は特に注意が必要です。
自分で計算する際は、支給漏れや計算間違いがないか、給与規程と照らし合わせながら慎重に確認する作業が求められます。
Step2. 社会保険料や税金を計算して「控除額」を算出する
次に、総支給額から天引きする「控除額」を計算します。
控除額には、法律で義務付けられている社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料など)と税金(所得税、住民税)が含まれます。
これらの金額は、個人の判断で変更できるものではなく、それぞれ定められたルールに従って算出します。
社会保険料は標準報酬月額や保険料率を基に、所得税は源泉徴収税額表を用いて計算します。
各種保険料率や税率は法改正によって変更されることがあるため、常に最新の情報を参照する点が計算のコツです。
その他、会社によっては労働組合費や財形貯蓄などが控除される場合もあります。
健康保険・厚生年金・雇用保険など社会保険料の計算方法
社会保険料は、主に健康保険料、介護保険料(40歳以上)、厚生年金保険料、雇用保険料の4つで構成されます。
健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料の計算には、「標準報酬月額」を用います。これは、従業員の給与を一定の範囲で区切ったもので、この標準報酬月額に全国健康保険協会や各健康保険組合が定める保険料率を掛けて算出します。算出された保険料は、会社と従業員で半分ずつ負担する労使折半となります。
一方、雇用保険料は、毎月の給与総額に定められた雇用保険料率を掛けて計算します。この料率も事業の種類によって異なるため、確認が必要です。
源泉所得税と住民税の計算方法
源泉所得税は、その月の総支給額から社会保険料を差し引いた後の金額(課税対象額)を基に計算します。
国税庁が発行する「給与所得の源泉徴収税額表」を使用し、算出した課税対象額と、従業員から提出された扶養控除等申告書に記載のある扶養親族の人数を照らし合わせて、該当する税額を求めます。
日給や週給で支払う場合は、税額表の「日額表」を参照します。
一方、住民税は前年の所得に対して課税されるもので、各市区町村が税額を計算し、会社へ「住民税課税決定通知書」を送付します。
会社はその通知書に記載された金額を毎月の給与から天引き(特別徴収)して、本人に代わって納付します。
Step3. 総支給額から控除額を引いて手取り額(差引支給額)を確定する
最後のステップとして、従業員が実際に受け取る手取り額、すなわち「差引支給額」を確定させます。
計算式は非常にシンプルで、「Step1で算出した総支給額」から「Step2で算出した控除額の合計」を差し引くだけです。この差引支給額が、給与支払日に従業員の銀行口座へ振り込む金額となります。
すべての計算が終わった後には、必ず検算を行い、計算ミスがないかを確認する作業が重要です。特に、総支給額や控除額の入力ミスは手取り額に直接影響するため、複数人でダブルチェックする体制を整えるなど、間違いを防ぐ工夫が求められます。
初心者が知っておくべき給与計算の重要ルール3選
給与計算は、単なる事務作業ではなく、労働基準法などの法律に則って正しく行わなければならない業務です。
法律で定められたルールを遵守しない場合、従業員とのトラブルに発展したり、行政から指導を受けたりする可能性があります。
特に初心者のうちは、計算方法だけでなく、給与支払いにおける基本的な原則や法律上の義務を理解しておくことが極めて重要です。
インターネットで情報を調べる際も、公的機関の公式サイトなど信頼できる情報源を参照するように心がけましょう。
必ず守るべき「賃金支払いの5原則」とは?
労働基準法第24条では、従業員の生活を保護するために「賃金支払いの5原則」が定められています。
これは、給与を支払うすべての事業者が遵守すべき基本的なルールです。
第一に「通貨払いの原則」で、給与は現金で支払うのが基本です。
第二は本人に直接支払う「直接払いの原則」。
第三が社会保険料や税金など法令で定められたもの以外を控除しない「全額払いの原則」です。
第四に毎月1回以上支払う「毎月1回以上払いの原則」、そして最後に、毎月25日など支払日を明確にする「一定期日払いの原則」があります。
給与計算ツールを使う場合でも、これらの原則を理解しておくことが不可欠です。
従業員の時給が最低賃金を下回っていないか確認する
事業主は、従業員に対して最低賃金以上の給与を支払う義務があります。
最低賃金には、都道府県ごとに定められている「地域別最低賃金」と、特定の産業を対象とする「特定最低賃金」の2種類が存在し、両方が適用される場合は高い方の金額が適用されます。
最低賃金額は毎年10月頃に改定されることが多いため、常に最新の情報を確認する必要があります。
時給制の従業員だけでなく、月給制の従業員についても、月給を所定労働時間で割って時給換算し、最低賃金を下回っていないかを確認する作業が必須です。
この確認を怠ると法律違反となるため、給与計算の際には必ずチェックしましょう。
時間外・休日・深夜労働の割増賃金を正しく計算する
従業員が法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて労働した場合や、法定休日に労働した場合、深夜(22時から翌5時)に労働した場合には、通常の賃金に加えて割増賃金を支払う必要があります。
労働基準法で定められた割増率は、時間外労働が25%以上、休日労働が35%以上、深夜労働が25%以上です。例えば、時間外労働が深夜に及んだ場合は、25%+25%=50%以上の割増率で計算します。
この割増賃金の基礎となる賃金には、通勤手当や家族手当など一部の手当は含まれないため、どの手当を計算に含めるかを給与規程で確認した上で、正しく計算することが求められます。

社労士 小栗の
アドバイス
給与計算は、法令遵守が特に重要です。労働基準法や社会保険、税法は頻繁に改正されるため、常に最新の情報を確認し、計算に反映させる必要があります。給与計算ソフトの導入や専門家への相談も、こうした法改正への対応漏れを防ぐ有効な手段です。
給与計算のミスを防ぎ、業務を効率化する方法
給与計算は正確性が求められる一方で、毎月発生する定型的な業務でもあります。
そのため、いかにミスをなくし、効率的に作業を進めるかが担当者にとっての大きな課題です。
手作業に頼っていると、ヒューマンエラーが発生しやすくなり、担当者の負担も増大します。
ここでは、給与計算の精度を高めながら、業務負担を軽減するための具体的な方法を紹介します。
自社の規模や状況に合わせて、これらの方法を検討・導入することで、より円滑な給与計算業務の実現が可能です。
もし計算ミスが発覚したら?正しい訂正と謝罪の手順
どれだけ注意していても、給与計算でミスが発生する可能性はゼロではありません。
万が一ミスが発覚した場合は、迅速かつ誠実な対応が求められます。
まずは計算内容を再確認してミスの原因を特定し、直ちに対象の従業員へ謝罪と説明を行います。
給与が不足していた場合は、差額を速やかに支払い、過払いだった場合は、翌月の給与で相殺するなどの対応を取りますが、その際も必ず従業員の同意を得ることが必要です。
重要なのは、ミスを隠さずに真摯に対応し、同じ過ちを繰り返さないための再発防止策を講じる姿勢です。
信頼関係を損なわないためにも、透明性のある対応を心がけます。
Excelの関数やテンプレートを使って自動化する
多くの企業で導入されているExcelは、給与計算を効率化する上で身近なツールです。
SUM関数で合計を、VLOOKUP関数で税額表から対応する値を参照するなど、関数を組み合わせて計算式を作成すれば、手計算に比べて作業時間を短縮し、計算ミスを大幅に減らせます。
また、インターネット上には給与計算用の無料テンプレートも多数公開されており、これらを活用するのも一つの方法です。
ただし、テンプレートを使用する場合は、社会保険料率や税率の変更があった際に、自分でメンテナンスを行う必要があります。
自社の給与体系に合わせてカスタマイズする手間はかかりますが、コストを抑えて効率化を図れます。
ヒューマンエラーを削減できる給与計算ソフトの導入
給与計算ソフトを導入することは、業務の正確性と効率性を飛躍的に向上させる有効な手段です。
ソフトを利用すれば、従業員の基本情報や勤怠データを入力するだけで、社会保険料や所得税などが自動で計算されます。
最大のメリットは、保険料率の改定や法改正があった際に、ソフトが自動でアップデート対応してくれる点です。
これにより、担当者が常に最新情報を追いかける負担が軽減され、計算ミスや法令違反のリスクを大幅に削減できます。
導入にはコストがかかりますが、手作業による確認時間やミスの修正にかかる手間を考えれば、長期的な視点での費用対効果は高いといえます。
専門家に任せる給与計算のアウトソーシング(代行)
社内に給与計算を担当できる人材がいない場合や、担当者が他のコア業務に集中したい場合には、専門家へのアウトソーシングも有効な選択肢です。
社会保険労務士事務所や給与計算代行サービスに委託すれば、専門知識を持つプロが正確な計算を行ってくれます。法改正への対応も確実で、複雑な計算や手続きをすべて任せることが可能です。
コストは発生しますが、担当者を雇用・育成する費用や、ミスが発生した際のリスクを考慮すると、結果的にコスト削減につながるケースも少なくありません。特に、従業員数が少ない小規模な事業者にとっては、負担を軽減する現実的な方法です。

社労士 小栗の
アドバイス
給与計算の担当者が退職や異動をする場合、業務が属人化していると引き継ぎが困難になり、業務が停滞するリスクがあります。給与計算ソフトやアウトソーシングを活用することで、業務プロセスを標準化し、誰が担当しても正確に計算できる体制を構築できます。
まとめ
給与計算は、従業員の生活を支え、会社との信頼関係を維持するための重要な業務です。
その基本は、「総支給額の算出」「控除額の算出」「差引支給額の確定」という3つのステップで構成されています。
このプロセスにおいては、労働基準法などの法律や、就業規則といった社内ルールを正しく理解し、遵守することが不可欠です。
業務の正確性を高め、負担を軽減するためには、給与計算ソフトの導入や専門家へのアウトソーシングといった効率化策も有効な手段となります。
まずは基礎的な知識と手順を確実に習得し、正確な給与計算業務を実践してください。