給与計算の基礎日数とは、一般的に賃金支払基礎日数を指し、給与計算の対象となる期間において、賃金の支払いの基礎となった日数のことです。
この日数は、雇用保険や社会保険の手続きにおいて重要な役割を果たします。
例えば、失業手当の受給資格の判定や、社会保険料の基準となる標準報酬月額の決定に用いられます。
給与体系や従業員の勤怠状況によって数え方が異なるため、正確に理解しておくことが不可欠です。
本記事では、この基礎日数の基本的な考え方から、具体的な計算方法、注意点までを詳しく解説します。
この記事の監修

日本ペイロール株式会社
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
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給与計算の基礎日数(賃金支払基礎日数)とは賃金の支払い対象日数のこと
給与計算の基礎日数、すなわち賃金支払基礎日数は、給与支払いの対象となった日数を表すものです。
この日数は、単に出勤した日数だけを指すとは限りません。
給与体系によってその数え方が大きく異なり、月給制の場合は暦日数が基礎日数となる一方、日給制や時給制では実際に出勤した日数が支払基礎日数となります。
この日数は、離職票の作成や社会保険料の算定基礎届など、公的な手続きで記載が求められる重要な項目です。
そのため、給与計算担当者は、各従業員の給与体系を正確に把握し、適切に基礎日数を算出しなければなりません。
基礎日数の計算が重要になる2つの手続き
賃金支払基礎日数の正確な計算は、日常の給与計算業務だけでなく、特に二つの公的手続きで必要不可欠です。
一つは従業員が退職する際の雇用保険に関する手続き、もう一つは社会保険料を決定するための手続きです。
これらの手続きにおいて基礎日数の計算を誤ると、従業員が受けられるはずの給付に影響が出たり、会社が納めるべき保険料が不正確になったりする可能性があります。
そのため、給与計算担当者は、基礎日数がどのような場面で、どのように利用されるのかを正しく理解しておく必要があります。
雇用保険の受給資格を判定するとき
従業員が退職した際に作成する「雇用保険被保険者離職票」には、賃金支払基礎日数を記載する欄があります。
この日数は、失業手当(基本手当)の受給資格を判断するための重要な要素となります。
原則として、離職日以前2年間のうち、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12ヶ月以上存在することが、受給資格の要件の一つです。
この条件を満たしているかどうかをハローワークが確認するために、基礎日数の正確な記載が求められます。
日数が不足していると、従業員が失業手当を受け取れなくなる可能性があるため、間違いのないように慎重に計算しなくてはなりません。
社会保険料の標準報酬月額を決めるとき
社会保険料の算定基準となる標準報酬月額を決定する際にも、賃金支払基礎日数が用いられます。
毎年7月に行われる定時決定や、昇給・降給などで給与に大幅な変動があった際の随時改定において、基礎日数が判断基準の一つとなります。
特に月額変更届では、固定的賃金の変動があった月以降の3ヶ月間の支払基礎日数が、原則としてすべて17日以上であることが要件です。
この日数を満たさない場合、随時改定の対象とはなりません。
パートタイマーの場合は、この基準が11日以上となることもあります。
【給与体系別】賃金支払基礎日数の基本的な数え方
賃金支払基礎日数の数え方は、企業の採用する給与体系によって異なります。
主に「月給制・週給制」「日給月給制」「日給制・時給制」の3つに大別され、それぞれで基礎となる日数の考え方が変わります。
例えば、月給制では出勤日数に関わらず暦日数を基礎としますが、時給制では実労働日数が基礎となります。
このように、従業員に支払われる賃金が何日分を対象としているかによって、算出方法が定められています。
自社の給与規程を確認し、各従業員の給与体系に応じた正しい方法で基礎日数を計算することが重要です。
この違いを理解しないと、社会保険などの手続きで誤りが生じる原因となります。

月給制・週給制の場合の計算方法
月給制や週給制で働く従業員の場合、賃金支払基礎日数は、原則としてその月の暦日数をそのまま用います。例えば、31日まである月であれば31日、30日までの月であれば30日が支払基礎日数です。ただし、欠勤や遅刻によって給与が減額される「欠勤控除」がある月給制(日給月給制)の場合は、就業規則などに定められている所定労働日数から欠勤日数を差し引いて賃金支払基礎日数を算出することが一般的です。この場合、暦日数ではなく、所定労働日数を基準に計算する点に注意が必要です。
あくまで給与の算定基礎が月単位で定められているため、完全月給制のように欠勤控除がない場合は、出勤日数にかかわらず、その期間の暦日数が基礎となります。週給制の場合も同様に、完全週給制であれば週の暦日数が基礎となり、通常は7日間として計算されます。ただし、週給制でも欠勤控除が適用される場合は、所定労働日数から欠勤日数を引いた日数が基礎日数となります。この方法は、給与が労働日数に直接連動しない給与体系の特徴を反映しています。
日給月給制の場合の計算方法
日給月給制は、給与の月額は決まっていますが、欠勤した日数分がその月の給与から控除される給与体系です。
この場合、賃金支払基礎日数は、会社の就業規則や賃金規程で定められた月間の所定労働日数から、欠勤した日数を差し引いて計算します。
例えば、ある月の所定労働日数が20日で、従業員が2日欠勤した場合、基礎日数は18日となります。
月給制とは異なり、暦日数ではなく、賃金の支払対象となった実質的な労働日数が基礎となる点が特徴です。
したがって、日給月給制の従業員の基礎日数を算出する際は、個々の勤怠実績を正確に反映させる必要があります。
日給制・時給制の場合の計算方法
日給制や時給制の従業員における賃金支払基礎日数は、実際に勤務した日数となります。
これらの給与体系は、労働した日数や時間に応じて賃金が支払われるため、出勤簿やタイムカードに記録された実労働日数をカウントします。
例えば、ある月に15日間出勤した場合、支払基礎日数は15日です。
半日勤務であっても、1日の出勤として数えるため、1日とカウントします。
この計算方法は非常にシンプルですが、雇用保険の手続きなどではこの日数が直接的に影響するため、日々の勤怠管理を正確に行い、出勤日数を正しく集計することが不可欠です。

社労士 小栗の
アドバイス
「月給制」と「日給月給制」の違いを明確にしましょう。どちらも「月給」と名が付きますが、基礎日数の数え方が大きく異なります。完全月給制(欠勤控除なし)は「暦日数」、日給月給制(欠勤控除あり)は「所定労働日数-欠勤日数」が原則です。特に日給月給制の場合、欠勤控除の処理が正しく基礎日数に反映されているか、給与計算ソフトの設定を確認することが大切です。
間違いやすい?ケース別の賃金支払基礎日数の扱い方
賃金支払基礎日数の計算では、有給休暇の取得や休職、欠勤など、判断に迷う特殊なケースがいくつか存在します。
これらの勤怠状況をどのように基礎日数に反映させるかは、給与体系や賃金の支払い有無によって扱いが異なります。
例えば、同じ「休み」であっても、賃金が支払われる有給休暇と、無給となる休職では基礎日数の数え方が変わってきます。
担当者がこれらの違いを正しく理解していないと、社会保険や雇用保険の手続きで誤った日数を申告してしまう可能性があります。
ここでは、間違いやすい具体的なケースを取り上げ、それぞれの正しい扱い方を解説します。
有給休暇や特別休暇を取得した場合
年次有給休暇や、会社が独自に定める慶弔休暇などの特別休暇を取得した場合、これらは賃金が支払われる休暇であるため、出勤したものとみなして賃金支払基礎日数に含めて計算します。
例えば、時給制の従業員がある日に有給休暇を取得した場合、その日は実働がなくても出勤日として1日とカウントします。
これは、休暇中も賃金の支払いの対象となっているためです。
ただし、会社が定める休暇の中に無給のものが含まれている場合は、その日を基礎日数に含めることはできません。
就業規則等でその休暇が有給か無給かを確認し、適切に処理する必要があります。

社労士 小栗の
アドバイス
基礎日数に「含める」「含めない」の判断は、「賃金が支払われたかどうか」が原則ですが、特に「休職」と「欠勤」の扱いには注意が必要です。一般に、賃金が全額支払われる有給休暇は含めますが、無給の私傷病休職期間は含めません。また、日給月給制での欠勤は日数から控除しますが、完全月給制の場合は欠勤があっても暦日数を数えます。個別の勤怠状況と給与体系を照らし合わせる、ダブルチェック体制を構築しましょう。
休職期間や産休・育休中の場合
従業員が私傷病による休職や、産前産後休業・育児休業を取得している期間は、原則として会社から賃金が支払われないため、その期間は支払基礎日数に算入しません。
例えば、月給制の従業員が月の初めから終わりまで丸1ヶ月間休職し、その月の給与支払いが全くない場合、支払基礎日数は0日となります。
ただし、休業期間中であっても、会社の規程などにより一部でも賃金が支払われる場合は、その支払いの対象となった日数を基礎日数として計上する必要があります。
休業に入る前の出勤日や、復帰後の出勤日がある月は、その出勤日数と賃金支払いの対象となった日数を合算して計算します。
欠勤により給与が控除された場合
従業員が欠勤し、それによって給与が控除された場合の賃金支払基礎日数の扱いは、給与体系によって異なります。
完全月給制の場合、欠勤控除があっても給与計算の基礎は月単位であるため、支払基礎日数は暦日数のまま変わりません。
一方、日給月給制の場合は、所定労働日数から欠勤した日数を差し引いた日数が基礎日数となります。
例えば、所定労働日数が22日の月に2日欠勤すれば、基礎日数は20日です。
日給制や時給制の場合は、もともと出勤日数に基づいて計算するため、欠勤した日は当然、基礎日数には含まれません。
給与体系ごとの違いを正確に把握することが重要です。
遅刻や早退をした場合
従業員が遅刻や早退をした日も、賃金支払基礎日数は1日としてカウントします。
たとえ遅刻や早退によって賃金が控除されたとしても、その日に出勤している事実に変わりはないため、基礎日数の計算上は1日と数えるのが原則です。
日給制や時給制の従業員であっても、勤務時間が短くなっただけであり、出勤した日数として1日と計上します。
支払基礎日数は、あくまで賃金支払いの基礎となる「日数」を数えるものであり、労働時間や賃金額の多寡は直接関係しません。
したがって、1日のうち少しでも勤務実績があれば、その日は基礎日数に含めて計算します。
パート・アルバイト(短時間労働者)の場合
パートタイマーやアルバイトといった短時間労働者の賃金支払基礎日数は、多くの場合、日給制や時給制に準じて、実際に出勤した日数をそのままカウントします。
例えば、1ヶ月に10日間勤務した場合、支払基礎日数は10日となります。
社会保険の随時改定(月額変更届)の際には、この支払基礎日数が重要な要件となり、通常の被保険者が17日以上であるのに対し、短時間労働者の場合は同じ事業所の通常の労働者の所定労働日数を考慮し、11日以上で判断されることがあります。
日々の勤怠を正確に管理し、出勤日数を正しく集計することが、適切な社会保険手続きにつながります。
まとめ
給与計算の基礎日数(賃金支払基礎日数)は、給与計算の対象期間における賃金支払いの基礎となった日数のことであり、単なる出勤日数とは限りません。
この日数は、月給制では暦日数、日給制や時給制では実出勤日数となるなど、給与体系によって数え方が異なります。
また、有給休暇は日数に含めますが、無給の休職期間は含めないなど、勤怠状況に応じた判断も必要です。
この日数は、雇用保険の失業手当の受給資格判定や社会保険料の標準報酬月額の決定といった重要な公的手続きで用いられるため、担当者は各ケースに応じた正しい計算方法を理解し、正確に算出することが求められます。