人材派遣という働き方を選ぶ際、給料の仕組みを正しく理解することは非常に重要です。
特に、求人情報に記載されている金額と、実際に受け取れる手取り額には違いがあります。
この記事では、派遣社員の給与計算の基本である「額面」と「手取り」の違いから、具体的な計算ステップ、天引きされる社会保険料や税金の内訳までを詳しく解説します。
自身の給料がどのように決まるのかを把握し、納得のいく働き方を実現するための知識を身につけましょう。
この記事の監修

日本ペイロール株式会社
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
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まずは基本から!派遣社員の給与における「額面」と「手取り」の違い
派遣社員として働く上で、まず押さえておきたいのが給与の「額面」と「手取り」という2つの言葉の違いです。
これらは給与明細を見ると明確に区別されており、会社から支払われる総額と、実際に自分が受け取る金額が異なることを示しています。
この基本的な違いを理解することが、自身の収入を正確に管理し、生活設計を立てるための第一歩となります。
なぜ金額に差が生まれるのか、それぞれの言葉が何を指しているのかを具体的に見ていきましょう。
「額面給与」とは会社が支払う総支給額のこと
額面給与とは、会社が従業員に支払う給与の総額を指し、給与明細では「総支給額」として記載されています。
これは、基本給である「時給×労働時間」に加え、残業手当、休日出勤手当、各種手当、有給休暇を取得した際の賃金など、労務の対価として支払われるすべてのお金を合計した金額です。
社会保険料や税金などが差し引かれる前の金額であり、求人情報に掲載されている時給や月収例は、一般的にこの額面給与を基準にしています。
そのため、求人情報の金額がそのまま手元に入ると考えるのではなく、ここから各種控除があることを念頭に置く必要があります。
「手取り額」とは実際に銀行に振り込まれる金額のこと
手取り額とは、額面給与(総支給額)から社会保険料や税金などが天引き(控除)された後、最終的に個人の銀行口座へ振り込まれる金額のことです。
給与明細では「差引支給額」の欄に記載されており、実際に生活費や貯蓄などに使えるお金はこの手取り額を指します。
派遣社員の場合、雇用契約は派遣元である派遣会社と結んでいるため、給与の支払いや社会保険の手続きは派遣元が行います。
したがって、実際に業務を行う派遣先企業から給与が支払われるわけではなく、派遣元が計算した上で手取り額が振り込まれる仕組みになっています。

社労士 小栗の
アドバイス
扶養の範囲を超えて社会保険に加入すると、額面給与は増えても、保険料の天引きによって一時的に手取り額が減る現象が起こりえます。ご自身の働き方と世帯の状況に応じて、どの壁を意識すべきかを事前に正確に確認することが非常に重要です。
派遣社員の手取り額をシミュレーション!給与計算の具体的なステップ
自分の手取り額が具体的にいくらになるのかを把握するために、給与計算のステップを理解しておきましょう。
計算は大きく分けて3つのステップで進みます。
まず、残業代などを含めた総支給額(額面)を算出し、次に法律に基づいて給与から天引きされる社会保険料や税金といった控除額を確認します。
最後に、総支給額から控除額の合計を差し引くことで、実際に受け取れる手取り額が算出できます。
この流れを追うことで、給与明細の内容をより深く理解できます。
ステップ1:総支給額(額面)を計算する
まず、自身の総支給額(額面給与)を計算します。
派遣社員の給与の基本は「時給×労働時間」です。
例えば、時給1,600円で1日8時間、月に20日間勤務した場合、1,600円×8時間×20日=256,000円が基本給となります。
これに、時間外労働(残業)や休日出勤があれば、その分の割増賃金が加算されます。
交通費が別途支給される場合は、それも総支給額に含まれることがあります。
派遣社員の平均年収を考える際も、まずこの月々の総支給額を積み上げていくことが基本となり、自身の働き方次第で金額は変動します。
ステップ2:給与から天引きされる控除額を確認する
次に総支給額から天引きされる控除額を確認します。
控除される項目は主に社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料、雇用保険料)と税金(所得税、住民税)です。
これらの金額は総支給額や年齢、扶養家族の有無などによって変動します。
例えば未経験から始める時給の高い事務職であっても収入が一定の基準を超えれば社会保険への加入が義務付けられ給与から保険料が天引きされます。
控除額は総支給額のおおよそ15%から25%程度になるのが一般的です。
ステップ3:総支給額から控除額を差し引いて手取り額を算出
最後のステップとして、手取り額を算出します。
計算方法は非常にシンプルで、「総支給額−控除額の合計=手取り額」となります。
ステップ1で計算した総支給額から、ステップ2で確認した社会保険料と税金の合計額を差し引けば、実際に銀行口座に振り込まれる金額がわかります。
一般的に、手取り額は額面給与の75%~85%程度が目安とされています。
例えば、額面給与が25万円の場合、控除額が合計で5万円であれば、手取り額は20万円となります。
給与明細の「差引支給額」の欄に記載されているのがこの金額です。
給与から天引きされる社会保険料と税金の内訳
求人情報に記載された給与額がそのまま手元に残らないのは、社会保険料と税金が法律に基づき天引きされるためです。
これらの控除項目にはそれぞれ役割があり、私たちの生活を支える重要な制度となっています。
具体的には、健康保険や厚生年金などの「社会保険料」と、所得税や住民税といった「税金」に大別されます。
どのような項目が、なぜ給与から差し引かれているのか、その内訳を正しく理解することで、給与明細に対する理解を深めることができます。
健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料
健康保険は、病気やケガで医療機関にかかった際の医療費負担を軽減するための制度です。
厚生年金保険は、老後の生活保障(老齢年金)や、万が一の際の障害年金・遺族年金を受け取るための制度です。
これらの保険料は、給与額に応じて決まる「標準報酬月額」を基に計算され、派遣元である会社と本人が半分ずつ負担します(労使折半)。
また、40歳になると介護保険への加入が義務付けられ、介護が必要になった場合にサービスを受けるための介護保険料も合わせて天引きされることになります。
雇用保険料
雇用保険は、労働者が失業した場合に再就職を支援するための給付(基本手当)を受けたり、育児や介護で休業する際に給付金を受け取ったりするためのセーフティネットとしての役割を持つ保険制度です。
「1週間の所定労働時間が20時間以上」かつ「31日以上の雇用見込みがある」という条件を満たす場合に加入義務が発生します。
保険料は毎月の給与総額に定められた保険料率を掛けて算出され、会社と本人の双方で負担しますが、その負担割合は健康保険などとは異なり、事業の種類によって定められています。
所得税
所得税は、個人の1年間(1月1日~12月31日)の所得に対して課される国税です。
毎月の給与からは、その月の総支給額から社会保険料を差し引いた金額と、扶養親族等の数を基にした源泉徴収税額表に基づいて、概算の税額が天引きされます。
これを源泉徴収といいます。
年末になると、年末調整によって1年間の正しい税額が再計算され、源泉徴収で納めすぎた分は還付され、不足していた場合は追加で徴収されることで精算が行われます。
生命保険料控除など、各種控除を申告することで税額を抑えることも可能です。
住民税
住民税は、住んでいる都道府県および市区町村に納める地方税です。
教育、福祉、防災など、地域の行政サービスを維持するために使われます。
住民税の額は、前年の1月1日から12月31日までの所得を基に計算され、翌年の6月から徴収が開始されます。
そのため、社会人1年目など前年に所得がない場合は、基本的に住民税は課税されません。
会社員の場合、派遣会社が毎月の給与から天引きして代わりに納付する「特別徴収」が一般的です。
年の途中で退職した場合は、残りの税額を自身で納める「普通徴収」に切り替わります。
派遣社員の給与は誰が計算して支払う?基本的な仕組みを解説
派遣社員として働く場合、実際に業務を行う「派遣先企業」と、雇用契約を結んでいる「派遣元企業(派遣会社)」という2つの会社が関わります。
このため、給与が誰によって計算され、どこから支払われるのかが分かりにくいと感じるかもしれません。
給与の支払いに関する基本的な仕組みを理解しておくことは、給与明細の確認や各種手続きをスムーズに進める上で重要です。
ここでは、給与計算の責任者と支払いタイミングについて解説します。
給与計算と支払いは派遣元(派遣会社)の役割
派遣社員の給与計算と支払いを行うのは、雇用主である派遣元(派遣会社)です。
実際に働く場所は派遣先企業ですが、労働契約は派遣会社と結んでいます。
そのため、労働時間の管理、時給計算、残業代の算出、社会保険料や税金の控除、そして給与の振り込みといった一連の業務はすべて派遣元の責任において行われます。
給与に関する疑問や相談、例えば給与明細の内容確認や有給休暇の申請なども、派遣先の担当者ではなく、所属する派遣会社の担当者に対して行うのが正しい流れです。
派遣社員の給料日はいつ?支払いタイミングの確認方法
派遣社員の給料日がいつになるかは、登録している派遣会社によって異なります。
一般的には「月末締め・翌月15日払い」や「月末締め・翌月25日払い」といった月1回の支払いが主流ですが、派遣会社によっては週払いや日払い、給与の前払い制度などを設けている場合もあります。
具体的な支払いサイクルや給料日は、派遣登録時や仕事の紹介を受ける際に必ず確認しましょう。
通常、雇用契約を結ぶ際に交わす「就業条件明示書」にも給料日に関する記載がありますので、手元に保管しておき、いつでも確認できるようにしておくことが大切です。
派遣社員の平均的な手取り月収はいくら?
派遣社員として働くことを検討する際、実際にどれくらいの収入が得られるのかは最も気になる点の一つです。
平均的な手取り月収は、職種や勤務地、個々のスキルによって大きく異なります。
ここでは、どのような仕事が比較的給与水準が高いのか、また地域によってどの程度の差があるのかを解説します。
これらの情報を参考に、自身の希望する働き方やライフプランに合った収入の目安を立ててみましょう。
職種別の平均時給と月収の目安
派遣社員の時給は、職種によって大きく異なります。
専門的な知識やスキル、実務経験が求められる職種ほど時給が高くなる傾向があります。
例えば、ITエンジニア、Webデザイナー、翻訳・通訳といった専門職は、高い時給が設定されることが多いです。
一方、一般事務やデータ入力、コールセンターなどのオフィスワーク系や、倉庫での軽作業などは、未経験からでも始めやすい分、時給は専門職に比べるとやや低めになる傾向が見られます。
月収の目安は「時給×1日8時間×月20日」で概算できるため、仕事選びの際に参考にするとよいでしょう。
地域によって異なる派遣社員の給与水準
派遣社員の給与水準は、働く地域によっても顕著な差が見られます。
首都圏(東京・神奈川・千葉・埼玉)や関西圏(大阪・京都・兵庫)、東海圏(愛知)といった大都市圏では、企業の数が多く人材の需要も高いため、全国の平均時給よりも高い水準に設定されていることがほとんどです。
特に東京都は最も時給相場が高いエリアです。
一方で、地方では最低賃金が都市部より低く、企業の数も限られるため、時給は比較的落ち着いた水準になる傾向があります。
希望する勤務エリアの時給相場を事前にリサーチしておくことは、効率的な仕事探しにつながります。
派遣社員が今より手取りをアップさせる3つのコツ
現在の収入に満足していない場合や、将来的にさらなる収入増を目指したい場合、派遣社員という働き方の中でも手取り額を増やす方法はいくつか存在します。
時給を上げることが直接的な収入アップにつながるため、交渉やスキル習得が重要な鍵となります。
ここでは、今よりも手取りを増やすために実践できる具体的な3つのコツを紹介します。
現状の働き方を見直し、より良い条件で働くためのヒントとして活用してください。

派遣会社の担当者に時給アップの交渉をする
手取りを増やす最も直接的な方法は、時給を上げてもらうことです。
契約更新のタイミングは、時給交渉を行うのに適した時期です。
交渉を成功させるためには、これまでの勤務態度や業務実績、派遣先での貢献度などを具体的に示すことが重要です。
例えば、「新しい業務を覚えて対応範囲が広がった」「業務効率化に貢献した」といった客観的な事実を伝えましょう。
日頃から派遣会社の担当者とコミュニケーションを取り、自身の働きぶりを理解してもらうことで、交渉がスムーズに進みやすくなります。
専門スキルを習得してより時給の高い仕事に就く
長期的な視点で手取りアップを目指すなら、専門スキルを習得することが有効です。
現在の職種よりも専門性が高い分野のスキルを身につけることで、より時給の高い仕事へキャリアチェンジすることが可能になります。
例えば、一般事務の経験を活かして簿記の資格を取得し経理事務を目指したり、語学力を磨いて貿易事務や翻訳の仕事に挑戦したりする方法があります。
多くの派遣会社では、登録者向けに無料の研修やeラーニング、資格取得支援制度などを提供しているため、これらを積極的に活用してスキルアップを図りましょう。
資格取得支援や福利厚生が充実した派遣会社を選ぶ
手取り額は時給だけで決まるわけではありません。
福利厚生の充実度も、実質的な手取り額に影響を与える重要な要素です。
例えば、交通費が全額支給されるか、上限があるかによって手取りは変わってきます。
また、資格取得支援制度が手厚い派遣会社を選べば、スキルアップにかかる自己負担を減らしながら、将来の時給アップにつなげることができます。
複数の派遣会社に登録し、それぞれの給与体系や福利厚生、サポート体制を比較検討することで、自分にとって最も有利な条件で働ける会社を見つけることが可能です。
派遣社員の給与計算に関するよくある質問
派遣社員として働く上では、給与に関してさまざまな疑問が生じることがあります。
求人情報に書かれている金額の解釈や、正社員とは異なるボーナスや退職金の扱いなど、事前に知っておきたい点は少なくありません。
ここでは、派遣社員の給与計算に関連して特に多く寄せられる質問とその回答をまとめました。
これらの情報を確認し、給与に関する不安や疑問を解消してから仕事探しや就業に臨みましょう。
求人情報に書かれている給与は額面ですか?手取りですか?
求人サイトや派遣会社の募集情報に記載されている時給や月収例は、社会保険料や税金が差し引かれる前の「額面給与」であることが一般的です。
したがって、記載されている金額がそのまま銀行口座に振り込まれるわけではない点に注意が必要です。
実際の手取り額を知りたい場合は、額面給与のおおよそ75%から85%程度が目安となります。
より正確な金額が知りたい場合は、派遣会社の登録面談などの際に、具体的な条件を伝えた上でシミュレーションを依頼してみるとよいでしょう。
派遣社員でもボーナスや退職金はもらえますか?
同一労働同一賃金の考え方に基づき、派遣社員の待遇は改善され、ボーナス(賞与)や退職金が支給されるケースが増えています。
ただし、支給方法は派遣会社によって異なります。
ボーナスについては、月々の時給に賞与分を含めて支払う方法と、別途賞与として支給する方法があります。
退職金についても、派遣会社が退職金制度を設けている場合や、退職金相当額を時給に上乗せして支払う方法などが採用されています。
これらの待遇については、雇用契約を結ぶ際に「就業条件明示書」で必ず確認することが重要です。
交通費は給与に含まれるのでしょうか?
かつては時給に交通費が含まれる「交通費込み」の求人も多く見られましたが、「同一労働同一賃金」のルール施行後は、原則として交通費は給与とは別に実費で支給されるのが一般的になりました。
これにより、遠方から通勤する場合でも自己負担が軽減されるようになっています。
ただし、支給方法については派遣会社や派遣先の規定により、「全額支給」「上限あり」「規定ルートのみ」といった条件が設けられている場合があります。
応募や契約の際には、交通費の支給条件がどのようになっているかを事前にしっかりと確認することが大切です。
まとめ
派遣社員の給与計算を理解する上で最も重要なのは、「額面」と「手取り」の違いを把握することです。
額面給与は会社が支払う総額であり、そこから社会保険料や税金が控除されたものが、実際に受け取れる手取り額となります。
給与の計算と支払いは、雇用主である派遣元会社が行います。
手取り収入を増やすためには、契約更新時に時給交渉を行ったり、専門スキルを習得してより高時給の仕事を目指したりすることが有効です。
また、福利厚生が充実した派遣会社を選ぶことも、実質的な収入アップにつながります。
給与に関する疑問点は事前に派遣会社に確認し、納得した上で就業することが大切です。